古橋功順さん、相模湖畔に佛光寺を開山/市内初の樹木葬


佛光寺の古橋住職

佛光寺の古橋住職

 相模湖近くの豊かな自然に囲まれた日蓮宗佛光寺分院(緑区若柳)はこのほど、『里山浄苑』と名付けた敷地内の墓地で市内初の樹木葬を始めた。経済的な理由のため遺骨を持ちながら埋葬できない人や、自分と家族の墓地を確保できない人などに低価格で利用してもらうのが主な目的。住職の古橋功順さん(69)は建設会社の社長を務めながら僧侶への修行を積み、60歳で退いてから佛光寺を建立し、現在は2つの寺の住職を務めている。自ら描いた人生設計そのままに生きる古橋さんの歩みをたどった。
(編集委員・戸塚忠良/2015年10月10日号掲載)

■会社経営者に

 東京・足立区に生まれた古橋さんは幼いころから人に好かれようという意識が希薄で、一人で絵を描くのが大好きだった。作品は先生にほめられ、展覧会で入賞することも多かった。「仲間と群れず自分の好きなことに没頭する、そんな子供だった」という。

 簿記の専門学校で知り合った女性と26歳のとき結婚し翌年、相模原に転入、新妻の父親が経営する相陽建設㈱に就職した。その後専務の役職に就くが、取引先や周囲の人たちに「お婿さん」という目線で見られることが多かった。そんな環境にもめげず、「あの会社には専務の古橋がいると評価されるように努力した」と回顧する。

 当時の会社の主力業務である公共施設の受注に努める一方、「今の社会は建築の底辺を広げることを求めている」と考え、家庭という単位に狙いをつけて個人住宅の受注拡大に努めた。また、当時は当たり前だった社長営業を見直し、経営と営業を分離させるため細やかな心配りのできる営業社員の育成に力を入れた。

 その甲斐あって、40代で社長の職に就いたころには、名実ともに相陽建設のけん引車としての評価は確かなものになっていた。

 ■社業と修行両立

 だが、社員をまとめ、仕事関係の多くの人と交わるうち、心の中で「自分自身にきつい修練を課さないと、自分がつぶれてしまうのではないか」という意識がめばえていた。加えて、生家の長男であり、婿入りした家の事業承継者でもある自分が、いずれはどちらの家の墓も守らなければという自覚もあった。

 こうした思いから30代最後の年、仏道を修めようと決意。僧侶になるための修行の一歩を踏み出した。もちろん、会社経営を続けなからである。

 「夜明けとともに起きて冬でも素足で修行に励んだ。7時に出社してその日の仕事の準備を整え、出勤してくる社員一人ひとりに声をかける毎日だった。それが辛いとは思わなかった。目的を持ち、きちんとした計画を立てて実行すれば、必ずやり遂げられると信じていた」と、淡々とした表情ながら言葉に力をこめて語る。

 僧侶の資格を取るという目的は47歳のときに達成し、地域の先達に絵画を学び、能面彫りの手ほどきも受けるなど自分を見つめる時間も確保した。

 社業では「景気のよしあしなどという世評を気にせず、今の時代が求める新しい仕事に対応していけば必ず道は開けると考えていた」という。公共施設から住宅建設への重点移動はその表れだった。

■佛光寺を開山

 還暦を迎えて社長を子息の裕一さんに譲り、自適の生活に入った。念願の世界一周旅行も楽しんだ。横浜港に帰港した折、友達が住職を務める寺に立ち寄ったことが、新たな活動の場に足を踏み入れるきっかけになった。千葉県香取郡にある、日蓮宗妙榮山佛光寺の住職を務める運びになったのである。

 佛光寺は1317年(文保六年)、高僧日祐聖人が開山した由緒ある寺で、聖人の教えは下総、安房だけでなく武蔵、相模、さらには九州肥前にまで及んだと伝わる。古橋住職は41世となる。

 就任以来、月に何度か足を運んで住職としての務めを果たしているが、相模湖に近い嵐山の麓に新たな寺を建てるのに好適な場所を見つけ、自ら開山となって佛光寺を建立し住職に就いた。

■樹木葬に着手

3人の内弟子を育てながら住職の務めにいそしむ中、古橋さんが残念に感じていたのは、今の社会ではお墓にかかる費用が高額で、墓を建てられない人が多いということだった。「こういう人たちのためにほかの寺ではやらない、新しい墓地を作りたい」と考え、始めたのが樹木葬だ。

 墓碑を必要とせず、その分低価格で木立に囲まれた埋葬の場所を確保してもらう仕組み。専用の袋に収められた遺骨はそのまま土に還る。一区画4人から5人の収納が可能で、個人や家族はもちろん、血縁、婚姻関係の無い人たちが一緒に眠る共同購入墓(友墓)としても利用してもらえる。価格は一区画25万円から。住職の思いを反映させた低額設定と言えよう。

 建設業界で仕事をしていたころ、「社会の基盤を作っている人たちが望むものを作ろう」と考え個人住宅の建設で新たな活路を開いたのと同様、「低価格での墓地購入を求める人たちのニーズに応えよう」と着手した樹木葬。新たな試みがどんな反響を呼び起こすか注目される。

…続きはご購読の上、紙面でどうぞ。