相模原出身の写真家・江成常夫氏(79)は6月22日、1970年代の多摩川を撮影した写真集『多摩川1970―74』(平凡社)を出版した。大阪万博や札幌五輪に国民が熱狂していた70年代、公害で死に瀕していた首都の川のありのままが記録されている。
多摩川は秩父山地の笠取山を源流とし、東京湾に注ぐ全長138キロメートルの一級河川。60年代後半から70年代にかけ、砂利採取や生活排水で、「死の川」と呼ばれるまで汚染が深刻化した。
収録作品は、江成氏が当時、勤めていた毎日新聞社の仕事の合間に、源流から河口まで足を運び撮影したもの。
源流の清流から、ごみや砂利採取で荒れた中流、洗剤の泡が舞い、悪臭が匂いたつような下流までが、「清」と「濁」の激しい落差で展開する。声高に反公害を叫ぶのではなく、川面を覆う洗剤までが美しい作品となって、川の嘆きを伝えている。
約40年前の多摩川は、現在の状況とは考えられないほど、著しい汚染があった。清流がよみがえった今だからこそ、想起すべき「負の記憶」となっている。
B4判で120ページ、4968円。問い合わせは、平凡社03・3230・6570まで。
(2016年7月1日号掲載)