安藤悦郎さん、あじさいメイツ理事長も/地域に根付いた活動32年


「引退後は夫婦で旅行を」と話す安藤さん

「引退後は夫婦で旅行を」と話す安藤さん

 安藤経営労務管理事務所(相模原市中央区)の安藤悦郎所長(71)は32年間、論語の「和して同ぜず」という言葉を信条にして社会保険労務士の業務を続け、顧問契約先の事業主などから厚い信頼を寄せられている。その一方、公益財団法人相模原市勤労者福祉サービスセンター(愛称・あじさいメイツ)の理事長として、市内の企業で働く人たちの福利厚生を充実するための事業振興にも取り組んでいる。地域に根付いた活動を積み重ねてきた社労士業界の重鎮に、半生を振り返ってもらった。
(編集委員・戸塚忠良/2016年10月1日号掲載)

■社労士に転身

 安藤さんは新潟県生まれ。県立長岡高校で学んだ後、中央大学法学部に進み、卒業後はトヨタ系の企業に就職。その後2度転職し1982年、勤めていた相模原市内の会社を退職した。会社勤めの時分に担当したのは営業、人事、総務の仕事だった。

 退職時には再就職も考えたが、サラリーマン時代の経験を活かせる仕事を自分で始めようと決心し、社会保険労務士の資格取得を目指して猛勉強に励み、退職から4カ月後の試験に見事合格した。

 だが試験に合格すればすぐに人事労務、労働社会保険、給与計算・社員教育、就業規則や賃金規程の作成といった仕事を任せてくれる取引先ができる訳ではない。

 安藤さん自身も83年1月に相模原市内の自宅に事務所を開いたものの、仕事を受託するあてはなかった。つまり、ゼロからのスタートだった。

 しかし、9カ月前にやめた会社へ試験合格と開業のあいさつをしたところ、幸運なことに、社長が顧問契約を申し出てくれた。顧客第一号だった。

■広がる活躍の場

 社労士として一歩を踏み出した安藤さんは、「まず具体的な目標を決め、それをどうすれば実現できるかを考え、実行することが大事」と考え、初年度の目標を顧問契約先24社に設定。企業訪問に歩き、旧知の人とのつながりも生かして奔走した結果、見事に目標を達成した。

 「知、誠、夢を理念として胸に刻み、不退転の決意、人間力の向上、地域で一番、士業はサービス業など7つの信念を忘れずに働いた。初年度は基盤づくりの1年になり、2年目からはほとんど紹介で取引先が広がった」と回想する。

 3年後の85年末の時点で顧問先は64社に増え、中央区相生に構えた事務所に専従従業員を1人置いた。

 その後は各種団体の研修会の講師、シンポジウムのパネラー、東証一部上場企業の社員教育講師など活動の場が拡がり、93年には初めて県社会保険労務士会の理事に就いた。

 本業では「正確で迅速な事務処理が基本中の基本。そして経営者との信頼関係を大切にしたい」という姿勢が評価され、95年末には顧問先が159社と大幅に伸び、職員も5人に増えた。

 年を追うごとに、社会保険庁長官表彰、相模原市政功労者市長表彰、全国社会保険労務士連合会長表彰などの受賞を重ね、県社労士会副会長、市労働報酬等審議会会長などの要職を歴任。現在も相模原商工会議所一号議員、あじさいメイツ理事長、市まち・みどり公社理事を務めている。
 
■あじさいメイツ

 これらのうち、あじさいメイツは市の支援を受けて働く人の福利厚生を手助けする公益法人。結婚祝いや弔慰金などの共済給付をはじめ、健康診断・人間ドックなどの健康管理事業、それにレジャー施設、旅行、通信教育の利用に対する助成を行っている。

 一番人気は入浴施設の利用補助で、毎年希望が殺到するほどだという。

 1人あたりの月会費は400円と低額で、9月1日現在、1547事業所、18121人が加入している。

 安藤さんは「人材確保、社員のやる気と活力アップ、企業価値の向上に役立ちます。詳細は『あじさいメイツ』で検索を」とPRの弁に熱をこめる。

■「特質を知れ」

 古希を過ぎた今、顧問契約先190社、スタッフ8人という事業を次の世代に継承する準備を進めているが、講演や指導の依頼は絶えない。後進を対象にする講演の中で安藤さんが強調するのは「企業と経営者の特質を知る」ということだ。

「企業の内容をしっかり把握すると同時に、会話や仕事ぶりなどを通して経営者の個性や取り巻く環境を見抜くことも大事。相手の話し方でおおよその性格が分かる。性格が分かれば対応策が見えてくる」と論じ、その上で、「自分の話し方の特質を知り、改善すべき所を改善して最高の話し方を身に着けよう。それが将来にわたる財産になる」と諭す。

 半生を振り返り、達成感漂う表情で「人生の半ばで最大の決断をして社労士の道を選択したのは間違いではなかった。いろいろな場で地域貢献もできたと思う」と語る口調は、講演の内容そのままの確かな説得力に満ちている。

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