日相印刷、「柏琳翻刻全集」を発刊/市の文化史に新たな光


仙客亭柏琳翻刻全集

仙客亭柏琳翻刻全集

 日相印刷(相模原市南区麻溝台)は10月15日、『仙客亭柏琳翻刻全集』を発刊した。仙客亭柏琳は江戸時代末期に相州磯部村に生きた農民戯作者。その作品三編が天保年間の1830年代に江戸で出版されたことは市史にも記載されているが、実際の作品は長い間埋もれたままで、出版に至る経緯も謎のままだった。今回の『全集』発刊により作品の全容が明らかになり、長い間の謎も解明された。江戸時代後期の市文化史に新たな光をあてる画期的な事業と言える。(編集委員・戸塚忠良/2016年10月20日号)

 翻刻は木版本を活字本に直す事業。発掘された作品は『花吹雪縁柵(はなふぶきえんのしがらみ)』、『星下梅花咲(ほしくだりうめのはなざき)』、『紫房紋の文箱(むらさきぶさもんのふみばこ)』の三戯作で、いずれも合巻というジャンルに入る絵入り物語。

 三作品とも当時のベストセラー作家柳亭種彦が校閲しており、道ならぬ恋や遊廓を舞台にした人間模様、侠客の活躍、意外なタネあかしなどを盛り込み起伏に富んだストーリーになっている。

 出版後180年あまりを経て翻刻された『全集』によって、柏琳のすべての作品が初めて地元の人たちの目に触れる運びとなった意義は極めて大きい。

 それとともに、「刊行の辞」で言われているように、「柏琳作品の出版の経緯を明らかにしたことが、今回の出版の最も大きな成果」と言える。

 これまで、柏琳の作品がなぜ、柳亭種彦の校閲を得て江戸で出版されたかは謎のままで、市史は「誰か余程有力な紹介者があったことと思われ…」と推測し、神奈川県史も市史に準拠して「種彦は誰かに頼まれて校閲したようである」と記している。

 ところが、今回出版された『花吹雪』の序文の中で種彦は「相州高座郡磯部村の人から種本と手紙が送られてきたが、俗名は記してあるが、作者としての名前は記されていなかった。それを知りたいと待っていたが、知らせも無いため、村名の『相州磯部』作として発刊する」と述べている。従って、柏琳が種彦に作品を送り、種彦が手を入れた上で出版元の鶴屋にあっせんしたことが初めて明らかになった。

 その一方、柏琳については、1868年(明治元年)に71歳で逝去したという以外に伝記的資料が無く、その人物像の究明は作品の評価とともに、今後の研究にまつところが多い。

 翻刻を刊行した日相印刷の荒井徹会長と荒井功社長は、柏琳の5代目の末裔にあたる。探索の末、国立国会図書館と複数の大学図書館に収蔵されていることを知り、昨年から翻刻の準備を進めた。

 B5判上製、351ページ。500部発行し、市、図書館、博物館などに寄贈する。

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