11月6日午後2時から相模大野の相模女子大学グリーンホール大ホールで12回目の定期演奏会を開く、マンドリンアンサンブル「ピュアサウンズ」。2003年の設立以来、相模原市南区内の公民館を拠点に練習に励み、福祉施設などでの慰問演奏にも取り組んでいる。「マンドリンの癒し感あふれる音色を演奏者と鑑賞者がいっしょに楽しみ、地域の音楽文化の振興にもつなげたい」というメンバーの願いそのままの活動だ。会の創立者で、編曲も担当する黒川好美代表(63)の足跡をたどり、ピュアサウンズへの思いを語ってもらった。(編集委員・戸塚忠良/2016年11月1日号掲載)
■音楽家の道へ
黒川さんは富山県高岡市の生まれ。6歳のときから童謡「夕日」などの作曲家、室崎琴月にピアノを習いはじめた。
高校生になって音大進学のため東京での講習会に参加した際、ほかの参加者が皆上手でショックを受けた。試験科目に聴音という科目があることさえ初めて知ったという。地元では聴音を教えてくれる人が見つからず、富山大学の教授に見てもらうため、高岡から富山へ通ったこともある。
そんな経緯もあって東京・立川市の国立音楽大学に進学。演奏者を育てる理論の学習に励むと同時に、自分のピアノ技術にみがきをかけた。
■ピアノ教室
卒業後、同郷の人と結婚。小田急相模原駅近くに住まいを構え、ピアノ教室を開いた。開設以来ずっと生徒を「練習すれば必ずできるようになる」と励まし続けている。言葉の上だけの叱咤(しった)ではなく、自分の経験に基づく実感をこめたアドバイスだ。
「私もほかの人にくらべて弾けなかった経験があります。だから、弾けるようになるにはどうすればいいか、その方法を知っています。弾けないところを弾けるようにするのが練習です。できるようになるまで工夫してごらんなさい。きっとできるようになります。私がそのお手伝いをします」
行き詰った時は原点にもどってひたむきに練習を重ねること、それが次のステップに自分を導いてくれる─その思いは、黒川さんが自分自身の気持ちの中に刻み込んだ揺るぎない経験知だ。「どんなことにも通じることだと思います」と、柔和な表情ながらも言葉に力をこめる。
■ピュアサウンズ
13年前にマンドリン合奏の「ピュアサウンズ」を設立したのは、「マンドリンは誰にでも親しみやすい楽器。気軽に参加できる演奏グループを作り、なじみのある楽曲をみんなで楽しみたい」という思いからだった。
この楽器が好きな人だけでなく、知人に誘われたり演奏風景に接したりするなどして入会する人が増えていったが、アマチュアの人たちが演奏を楽しむためには、クラシックやポピュラーの楽曲をマンドリン演奏用に編曲する必要がある。
黒川さんは自らこの役割を担い、数多くの名曲を編曲。「ピュアサウンズ」の活動のテキストにしているのはもちろん、出版社の求めに応じて10冊もの楽譜集として刊行している。
今、ピュアサウンズのメンバーは40代から80代までの35人。最高齢は84歳の女性だ。一昨年に発行した10周年記念誌には、「憧れの合奏ができて本当に満足」「先生のちょっとヒョウキンな指導と練習が楽しい」といった言葉に交ざって、「七十路を過ぎて習いしマンドリン 音色と仲間に出会えた喜び」と真情を吐露した和歌も並んでいる。
11月6日の演奏会は「魅惑のワルツ」「愛のよろこび」「星に願いを」など多くの人に親しまれている名曲をはじめ、歌劇中の曲を編曲した作品も盛り込み、大学教授でもある異色の男性声楽家が出演するなどバラエティに富むステージになりそうだ。午後1時30分開場。入場無料。
代表としての当面の心配は、練習拠点の公民館の使用が有料化されそうなこと。「年金で生活しているメンバーがほとんどですので、有料化は厳しい。考え直してほしいですね」と訴える。
■年を重ね得るもの
黒川さんはこのほかにもいくつかの顔を持っている。その一つが、「地域社会と世界中で女性と女児の生活を向上させる奉仕活動」を掲げる「国際ソロプチミスト相模」での活躍。広報担当として会の情報発信の窓口を務めている。
また、朝日カルチャーセンターやNHK文化センターでマンドリン講師として多くの生徒を指導しているほか、高校時代からたしなんでいる茶道にも造詣が深く、裏千家の「宗好」という茶名を持っている。「お茶も音楽も、流れが大切。肩の力を抜いて自然体で臨むことを大事にしたいですね」と話す。
自分が歩んできた道で学びとったことや心に刻んだことをそのまま、後に続く人たちに伝えようという思いは、年齢を重ねるごとに強くなるようだ。
「年を重ねるたびに得をしたと感じます。それまで気づかなかったことに気づき、自分の身近にいる人たちの個性をより深く理解できるようになるのですから」と、いつまでも前向きに生きる姿勢をのぞかせる。