創立60周年を迎えた和泉短期大学(相模原市中央区青葉)は、全国でもまれな児童福祉学科の単科短大で、一年制の専攻科介護福祉専攻も置いている。学生の多くは市内高校の出身者で、卒業後は市内・県内の幼稚園、保育園、児童養護施設を中心に活躍している。「キリスト教信仰に基づく教育と人格形成」という建学の精神を脈々と受け継ぎつつ、地域密着型の教育機関として地域との連携に努める和泉短期大学の沿革と今を、深町正信理事長の談話を織り込みながら紹介する。
(編集委員・戸塚忠良/2016年11月10日号掲載)
■創立60周年
学校法人和泉短大の前身は1956年東京・世田谷に児童救済のための福祉施設に働く人の訓練機関として発足した「バット博士記念養成所」。最初の受講者はわずか17人だった。
その後、玉川保母専門学院、和泉短期大学へと発展し、入学希望者の増加に対応するため76年、相模原市に全面移転した。
92年に建学の父の名を冠したクラークホールを建設。学園のシンボル的な施設で、現在はその正面にパイプオルガンが設置され、窓を現学長・佐藤守男氏の原画による10枚のステンドグラスが彩っている。アンティークガラスで制作された貴重な美術作品という。
今年度の在籍者は593人。男女共学だが、90%以上が女子学生。保育・福祉専門職に必要な知識と技能の修得に励んでいる。
「課題発見・グループ討議・体験学習・プレゼンテーションを一体にした自主性あふれる学びが、学生の理解力と行動力を伸ばしています」と、深町理事長は強調する。
■地域連携活動
また、理事長が「地域密着型の教育が学園の大きな特徴」と強調する通り、日々の学びの中で、学生たちは地域と地域の子どもたちとのふれあいを重ねている。
そのための学内の拠点が、保育室をイメージしたキャリアデザインセンター。「すまいりぃ」と「はっぴい」という愛称の子育て支援活動の拠点でもある。
「すまいりぃ」は毎週木曜日、近隣の未就学児の親子を迎え入れて自由に遊んでもらい、授業の休み時間には学生たちが加わって楽しいひとときを過ごす。
また、「はっぴい」は毎月一回、学生が企画から準備、発表まで受け持って、幼児向けに設定したテーマに沿った遊びの時間を過ごす。学生たちにとっては楽しい学びの場にもなっている。
このほかにも地域と連携したさまざまなボランティア活動に携わる学生は少なくない。
里親・障がい児(者)を支援する活動として、児童養護施設「中心子どもの家」で行われる里親の会での託児ボランテイア、障がい者支援センター松が丘園利用者の手づくりパンの学園内での販売への協力、県立相模原中央支援学校での手遊びや寸劇の披露などをしている。
幼い子どもたちとふれあう活動として、光が丘地区公民館での劇や読み聞かせ、北里大学と連携した「はっぴいアクアリウムプロジェクト」にて幼児向けミニ水族館や冒険遊び場の開催も続けている。
毎年11月の児童虐待防止推進月間に合わせたオレンジリボンキャンペーンでは、学生が手作りした4000個のオレンジリボンを相模原市と協力して街頭配布したり、市内の図書館・児童館に置いたりして児童虐待の撲滅を呼びかけている。
学校法人としても市民大学への講師派遣、地元自治会と連携した防災訓練など市との協力実績を重ね、2014年には市内の7大学とともに市と健康・福祉、防災、教育・文化などに関する包括連携協定を結ぶなど地域貢献を積極的に進めている。
■卒業生の声
和泉短期大学が相模原市に移転して40年。地域密着型の教育環境の中で学び、その後、社会で活躍している卒業生は数多い。
そうした人たちが学園の月報に寄せた回想談には、「二年間の短大生活では勉強、その他の活動一つ一つが新鮮で魅力的なことばかり、毎日充実していました」「二年間で学んだことが今の力になっていることを確信しています」といった言葉が並んでいる。
■理事長の横顔
学園運営の柱である深町理事長は1936年、プロテスタント教会の牧師を父として静岡市に生まれた。戦時中静岡大空襲で死の淵に立たされた体験を持ち、戦争の悲惨さは身にしみて知っている。
東京神学大学を卒業後、米国のデューク大学に留学。その後はキリスト教人道主義に基づく教育活動に半生を奉げ、青山学院大教授、院長などを務めた。現在は同学院名誉院長、東洋英和学院院長も務めている。
「放任も過保護もいけない。その間が理想的」という教育観を持つ理事長は、「私は両親に〝放牧〟されながら育った。放牧というのは人間として踏み越えてはいけない規範の中で自由に生きること。そのおかげで、私は自分で物事を考える力が身に着いたと思う。両親に感謝しています」と話す。
今後も、「0歳から4歳の間にモラルをしっかり教えることが大事」という信条のもと、幼い子たちに人間としてのモラルを伝える人材の育成に取り組む。