まもなく街にジングルベルの曲が鳴り響く季節。ペーパーナプキンを店内いっぱいに展示・販売している、M‐クラフト(相模原市緑区川尻コピオ相模原インターB館)にもクリスマス図柄の商品が加わって店内に季節の彩りを添えている。経営者の本橋君代さん(63)は優れたナプキンアーティストとして知られ、同時にアート教室を開設して愛好者の指導もしている。「6千種類以上のペーパーナプキンをそろえているのはここだけ。きっと自分が好きになるものを見つけていただけると思います」と自信に満ちた笑顔を浮かべる。(編集委員・戸塚忠良/2016年11月20日号掲載)
■様々な仕事歴
横浜市出身の本橋さんは若い頃から事業熱が強く、八王子市でスナックと炉端焼きの店を経営した経験がある。
結婚してからしばらくは専業主婦だったが、働くことへの意欲は衰えず、墓石の清掃や野菜栽培の仕事に励んだ。「トマト農園の段々畑で一生懸命作業して汗を流した思い出があります」という。
■アートと出会う
2003年に相模原市に転入したあとすぐに、知り合いに勧められてナプキンアートを始めた。さまざまな意匠の紙ナプキンを自由な形に切り取って好きな物に貼り付け、世界に一つしかない品物に作り上げるアートだ。
「小さい頃から手作り品が大好きな性格で、世界中の楽しく、美しい素材を使って自分だけの作品を制作する楽しさに夢中になりました」と本橋さん。頭の中に次々とイメージが浮かび、わずか2カ月後に作品集を出版して大きな反響を呼んだ。
旧津久井町中野に店を出したのは7年半前。小さいながら温かな空気に満ちたショップだった。相模原市役所、市立中野中、城山公民館などで出張教室も開催し、今に至るまで多くの依頼がある。
「どの会場でも、始めは硬い表情で取り組んでいた受講者の顔つきが、だんだん楽しくてしかたがないというふうに変わり、教室中に活気があふれてくるのを感じます」と本橋さん。
■コピオB館店
その後、商業施設のデベロッパーだった夫の弘さんが、15年3月に開店したコピオ相模原インター店のテナント誘致に関わっていたこともあって、中野から現在地へ移転する段取りを整えた。ところが弘さんが12月に亡くなり、その2週間後にコピオ内に出店するという巡り合わせになった。
それとともに、M‐クラフトの隣のスペースに8台の洗濯機と乾燥機を備えるコインランドリーを開設した。合わせて4千万円の投資だった。亡夫の最後の仕事でもあった。
M‐クラフトの広さは約100平方メートル。壁面にはさまざまなペーパーナプキンが並べられている。価格はサイズなどによって異なるが、1枚140円、2枚入り180円が中心。
本橋さんが自分で仕入れたものばかりで、「どんなものがどこにあるかすべて覚えています。8年間かけて集めたものなので、今では問屋さんにも無いものが少なくありません。幅広いお客様や生徒さんのイメージに合ったものを提供できるのが自慢です」と言葉に力を込める。
洋品や雑貨も展示しており、「女性のおもちゃ箱にしたい」という本橋さんの想いを形にした、柔らかな空気に満ちた店構えだ。
奥の部屋はナプキン・デコレーションアート教室になっている。「今は経営のメーンになっています」と本橋さん。初級、中級、上級のクラスを設けており、初級コースでは石けん・ランチョマット・布バッグのセットで6800円。一点ずつでの料金設定もしている。
「最近はバッグやスニーカーのデコレーションの人気が高いです」と本橋さん。受講者の作品の優れた点を見付け、長所を伸ばすのが流儀だ。
「ナプキンアートの特長の一つは、見本やお手本どおりのものを作るのではなく、それを参考にしてみんなが思い思いの作品を作ることです。一人ひとりの個性を生かせるということですね」
このほか、趣味サークルのための貸し教室、対面販売に適した貸しブース、壁面を利用したミニ個展のためのレンタルスペースとしても需要に応えている。
■スタッフへの思い
「いつでも仕事のことばかり考えている」という本橋さん。60代になって関節と右ひざを悪くして手術を受け、今も定期的に病院に通っている。それだけに一緒に働くスタッフが大きな支え。今の従業員は教室助手が1人、販売スタッフが3人だ。
「開店以来、ここまでやって来られたのはスタッフと応援してくれるお客様のおかげ。本当に感謝しています」、こう真情を漏らす言葉が震え、目に涙が浮かぶ。その思いは自分自身を奮い立たせる気持ちにつながる。
「仕事は大好き。店が目立たない場所にあるため、経営的には苦戦していますが、当初は赤字だったランドリーのリピーターが増えて業績は上向きです。今は借金を返すだけで精一杯ですか、完済したら、支えてくれる方々に感謝の気持ちをこめたお礼がしたい。それを目標に頑張ります」と語る表情はやる気と活気にあふれる。