㈱ほねごり代表取締役社長の阿部公太郎さん(34)は、柔道整復師の資格を持つ相模原市生まれの青年企業家だ。「ホスピタリティ精神とサービス精神を持ち、最高のチームで患者様に根本的な治療を」という経営理念を掲げ、市内小山の本社をはじめ横山、海老名、小田原、八王子、町田、杉並などに14の骨盤整骨院を展開している。「30年後には1000店舗を実現したい」と熱く語る表情には、世界の健康産業界でトップクラスに立とうという志をのぞかせる。(編集委員・戸塚忠良/2017年4月20日号掲載)
■人生の転機
阿部さんは上溝高、帝京大を卒業後、呉竹柔道整復専門学校に学んだ。そのいきさつをこう語る。
「大学卒業時、一番就職したかった会社の最終面接の日に、駅の階段で転倒して足首を捻挫しました。そのとき治療に通った整骨院の柔道整復師の先生が非常に魅力的な方で、骨盤や薬のことをていねいに説明してくれました。患者にとって医師と共通の認識を持つことがいかに大切かを実感しました」
この体験をきっかけに、自分の人生をしっかり見直そうと考え、鍼灸整骨業界に飛び込む決心を固めた。また、小さい頃から抱いていた経営者になりたいという夢を実現することもできるのではないかとも考えたという。
人生の転機を経て、アルバイトで入学金を稼ぎ、専門学校に通った。医院での研修も体験した後、2013年に相模原市中央区小山で開業。翌年、会社を設立した。
■店舗設置の条件
開業にあたって経営指針にしたのは、「自分で指揮を執り、最高のスタッフを育成して最高のチームを作り、伝統医療の技を使って地域の人たちの健康のために貢献したい」ということだった。
同時に、姿勢と冷え性に悩む女性が非常に多いことに着目して、整骨でその悩みを解消してもらうため、骨盤整骨、なかでも「産後骨盤矯正を得意技として20代~50代の女性に利用してもらおう」と考えた。
柔道整復師という施術のプロフェッショナル集団を組織し、確かな経営を可能にする規準を設定して店舗拡大を目指したのである。医術と経営の融合と言えよう。
具体的な店舗条件として設定したのは、ロードサイドのコンビニ跡地、または駅から徒歩3分以内の立地。賃料は30万~60万。建物面積は25坪~55坪、駐車場は8台~20台。
設備はベッド11台、トムソンベッド1台、検査ベッド1台。1院のスタッフは院長、柔道整復師が1人、鍼灸師、施術補助が各2人、受付係4人。
リース機材についても明確な基準を設けた。ハイボルテージ(特殊電気)、トレーニング機器2台、トムソンベッド、光線療法設備。これらのリース料合計が720万円。
これに物件取得費、内装費、看板を合わせた初期投資額は1830万円となる。
■創業精神
こうした条件を満たす店舗経営を展開し、また賛同する仲間を募る背景となり、支柱ともなっているのは、阿部さんの創業精神であることは言うまでもない。『自分自身も学びながら、伝統医療の技と知識を用いて世界中の人々に健康と幸せを』という事業目的から導き出した独自の経営観を次のように語る。
「整骨院の使命は、保険を使って安くマッサージを提供することだけではありません。患者さんの痛みを取る治療だけでなく、その痛みが出る原因を取り除くことが大事です。体の不調が出て来やすい30代から60代の人、特に女性に予防を含めた原因の治療を施して、院への信頼を高めてもらう経営を心がけています」
会社設立からわずか3年足らずの今、ほねごりの店舗は14店舗を数え、従業員は103人(正社員57人、パート・アルバイト46人)となっている。
■生きる意味
今、全国に鍼灸整骨院は45000院あるとされるが、歯科医院の約70000医院に比べればずっと少ない。高齢化が進む日本社会の中で、整骨院への需要はいっそう高まることは必至だ。
その反面、「歯科に比べて整骨院の社会的認知度はまだまだ低い」という阿部さんは、メールやポータルサイトを活用して院の周知に努めており、地域とのつながりを強めるため商店街や企業などでのデモンストレーションも行っている。
捻挫の体験を契機に、整骨院経営という自分の将来をかけた道に歩み出した阿部さんは、心の底に秘める思いを「自分はどう生き、どう死んでゆくのか。企業家として生き抜くことで、その答えを見つけ出したい」と真情こもる口調で明かす。