井上栄次さん、「教育」の可能性を模索へ/相模原の将来像を市に提言


「相模原をハッピーに」と井上さん

「相模原をハッピーに」と井上さん



相模原商工会議所の内部団体である都市産業研究会(都産研)は毎年、相模原が今抱えている主要な課題の一つをテーマにして探究を積み上げ、会員が知恵を出し合ってまとめた改善策と将来ビジョンを産業人の立場から市に提言している。このほど、中央区相模原で税理士・行政書士事務所を開設している井上栄次さん(57)が会長に就任した。「相模原は可能性にあふれた街」と熱く語る新会長に会をどうかじ取りしていくかを聞き、合わせて都産研の近年の実績を概観する。(編集委員・戸塚忠良/2017年6月1日号掲載)

■税理士開業

井上さんは1959年愛媛県の出身。神奈川大在学中に会計学のゼミに所属した。ゼミの恩師からアドバイスされたこともあって、在学時に会計事務所でアルバイを経験し、卒業後は働きながら税理士への勉強を重ねた。

資格取得後は、町田市内の会計事務所での勤務を経て、36歳のとき独立。相模原警察署近くに事務所を開設した。

「人脈も地縁も無かったから、最初のお客さんはわずか4社だった。いろんな人に、とてもやっていけないよと言われた」と苦笑交じりに語る。

■JCと商議所

だが、誠実な業務ぶりと親身になって相談に応じるなどの姿勢が好評で、実績は右肩上がりに伸びた。それとともに、開業まもなく、相模原青年会議所(JC)に入会したことも人脈を広げる大きな力になった。

「JCでは、若い世代の視点で相模原のまちづくりを考え、さまざまな事業に取り組んだ。その経験を通じてこのまちの可能性を知り、人と人との結びつきがどれだけ大切かを感じた。相模原への愛着を深める上で貴重な体験になった」と回想する。

また、相模原商工会議所に入会して市の産業人との交流を深めたのは言うまでもない。

■都産研の軌跡

税理士としての事業が順調に推移する中、12年ほど前、誘われて都市産業研究会に入会した。市の現在の課題と将来像に真摯な関心を持つ産業人の社会貢献団体だけに、意見交換のレベルは高い。

毎月一回の話し合い、市職員などからの聞き取り、資料収集とデータ分析、先進自治体の視察などを重ねてその成果を市に提言し、小冊子にして一般に配布している。

『グリーンコンパクトシティ相模原』『15年後の相模原のチェックリスト』といった近未来を展望する冊子には、大きな反響があった。

提言が机上の空論を羅列するのではなく、市の将来への実践的な針路を目指していることは、喫緊の課題についての具体的な方策の提言に現れている。

たとえば一昨年は橋本・相模原駅周辺都市整備を取り上げ、橋本駅については「JR橋本―京王橋本駅レベルで、アリオ及び北口MOVIXをつなぐ回遊ペデストリアンデッキ」「接続都市への直行バス機能の具備」を提言。

相模原駅については「既成施設の動線も有効化する都市施設(ペデストリアンデッキなど)の配置」や「全国に先駆けた、防災先進都市を軸に、政府機関、大使館、企業立地を触発する」とした。

さらに、「2駅間シャトルEVの運行による橋本・相模原ツインコアの形成」も盛り込んでいる。

直近のテーマは相模原の観光。基本理念として「森林資源、既存観光資源の利活用と市内活性化を目指し、One Sagamiharaを実現」を掲げ、観光資源の徹底的情報発信、市の魅力を伝えるツアーと交通利便の促進、市内イベントの相互関連性の構築などを提唱している。

■「教育」をテーマに

こうした実績を背景に、井上さんは「教育」を新たな研究テーマに選んだ。「教育はまちづくりの根本。私自身も一人の産業人として都産研で楽しみながら多くのことを学び、知識を深める喜びと、教育の大切さを強く感じている。相模原なりの教育の可能性を考えたい」と抱負を語る。

市の産業については「日本でもまれなほどアグレッシブで、今も成長している。新しい産業も少しずつ増えている。若手の実業人にとっても非常に面白い所」と認識している。

そして、「農業も大消費地の近郊農業という特性をもっと活用すれば、大きなビジネスになる可能性があり、観光資源も豊富。地域の活力衰退が懸念される人口減少の度合いも深刻なものではない。市産業の可能性を生かすためには、産業人一人ひとりが努力することが大事なのは言うまでもないが、市の努力にも期待したい」と強調する。

都産研の現在の会員は約50人。「今年度は会員の増強にも力を入れたい」と積極的な運営に意欲をのぞかせる新会長のもと、都産研がどんな成果を上げるか注目される。

 

 

 

 

 

 

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