伊藤信吾さん、地域貢献と弁護士業を両立/「ゆめの芽」の運営担う


行動力豊かな伊藤さん

   行動力豊かな伊藤さん



「地域とともに法の心を育む」を経営理念にかかげる弁護士法人相模原法律事務所。この理念に沿って市内に3つの事務所を構えて地域のさまざまな法的ニーズに応えるとともに、トラブルのない豊かな地域社会を実現するため社会正義と公平を尊重する「法の心」を実践するよう市民と企業に呼びかける。業務を総括している伊藤信吾さん(53)は、長年にわたり社会貢献活動を積み重ねていることでも知られており、「自分の貢献中では弁護士業務と地域活動は一つのもの」と明快な口調で語る。(編集委員・戸塚忠良/2017年9月10日号掲載)

■弁護士への道

伊藤さんは1964年東京生まれ。3歳のとき相模原へ転入し谷口台小、桐蔭学園中・高校で学んだ後、早大法学部に進学した。

「大学3年まではのんびりと過ごしていた」と言うとおり、アルバイト代を貯めて買ったクラシックやジャズのレコードを数百枚ほど収集し、レコード愛好サークルに入って仲間との情報交換を楽しんだ。

卒業後の進路を父親の平信さんと同じ弁護士に決めたのは、「幼い頃から父親の背中を見ながら成長するうち、弁護士は人に尊敬され、感謝される職業だという思いが強くなっていたためだと思う」と回想する。

26歳のとき司法試験に合格し、熊本県内の司法研修所での研修などを経て、横浜市の弁護士事務所に就職。3年間勤めた後、95年に平信さんとともに相模原市で弁護士事務所を開業した。

■JC活動へ

しかし、住まいはずっと相模原にあったものの、中学から市外の学校で学んだこともあって人脈に乏しく、「経営していけるかどうか不安だった」という。そして、この不安を解消するには仲間づくりが最善策と考え96年、相模原青年会議所(JC)に入会した。翌年には強く勧められて相模原グリーンロータリークラブにも名を連ねた。

JCでまちづくりの手法としての活動や社会貢献のあり方などを学ぶうち、思いがけない展開が待ち受けていた。2002年、市民のNPO活動の拠点さがみはら市民活動サポートセンターを運営する、さがみはら市民会議の代表を務めることになったのである。

「熱気のあるNPOが多く、環境、福祉、教育などいろいろな分野の団体の意見の違いを調整しながら運営するのは大変だったが、仲間の協力もあってしっかりできた」という。代表は今も続けている。

JCでの活動も精力的で、02年度に理事長を務めた後、日本青年会議所神奈川ブロック協議会会長の要職も経験して見聞と人脈をさらに広げた。

■ゆめの芽

社会貢献活動の場は05年に発足した市民ファンド「ゆめの芽」へと広がる。市民と企業から寄付を募り、市民活動団体へ資金として提供する運動。JCのOBたちが中心になって立ち上げ、伊藤さんはその事務局として実務を引き受け、現在に至っている。

「市民や団体が何かを始めようという思い付きを実行するときに、背中を押してあげるのが目的」と説明するように、応募団体の中から毎年10件ほどを選定し、50万円を上限に助成している。

これまでの対象団体は外国人留学生・難民の支援、不登校児のための農業体験、アニマルセラピー、世代間交流など多彩な目的を持つグループ。08年からは市との協働によるファンドとなった。

このほか、今年で5周年を迎えた、相模原を愛する人たちのフェイスブックによるコミュニティ「さがみはらぶ」の運営役を担っている。また、生来の音楽好きを生かして今年2月の県内弁護士の集まりでは、自ら作詞・作曲した歌を仲間とともに披露して懇親の席を大いに盛り上げたエピソードもある。

趣味はダイエットのために始めた自転車。遠距離サイクリングも楽しむが、努めて市内を自転車で走る。「歩く時や車から見るのとは違った風景が見えてくるから」だ。

■「好きだから」

こうした八面六臂の活躍と歩調を合わせて、弁護士事務所の経営にも抜かりはない。現在の弁護士スタッフはベテランと若手合わせて5人。

裁判所前の富士見に主事務所を構えるほか、相模大野駅前、橋本駅前にも事務所を開設して市民からの相談などに対応している。

08・09年度に横浜弁護士会(当時)相模原支部長を務めるなど弁護士として確固とした地歩を築く一方で、地域密着の社会貢献に奔走するのはなぜなのか―。

「やらなくてもいいことかも知れない。でも、地域活動は私にとって決して片手間の余技ではない。好きだから自発的にやっている。それが楽しい。お金もうけではなく、仲間やいろんなことをしている人たちと話し合いながら、目標に向かって進んでいく感覚はとても貴重な体験。自分はそういう人たちに育てられたと感謝している。今後、私の経験を受け継ぐ若い人が育ってくれればと期待している」と心のうちを率直に明かす言葉に、地域と仲間、そして未来を託す人材への愛着と信頼の響きがこもる。

 

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