相模原出身の山中正之さん、マン島ＴＴに挑み続ける／感染症拡大防止で中止で後身育成も視野に

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英国のグレートブリテン島とアイルランド島の間にある「マン島」で、「世界でもっとも危険な競技」と言われながら１１０年以上の歴史を持つ公道レースがある。「マン島ＴＴ（ツーリスト・トロフィー）」だ。その主催者であるマン島政府が２０２０年11月30日、新型コロナウイルス感染症の拡大防止などを理由に、６月に予定されていたレース開催を中止すると発表した。

この過酷なレースに挑戦し続けている相模原市出身のバイクレーサーがいる。東京・北池袋でバイクショップを経営する山中正之さん（52）だ。

中止の報を受けた山中さんは「率直に残念で、悔しい。選手として出場できる時間は限られている。１年でも無駄にできない。それが２年連続中止になった」と胸中を打ち明けた。

17年からはプライベートチームを通して、マン島ＴＴの「スーパースポーツＴＴ」（排気量６００cc前後４気筒クラス）に挑戦。２年目の転倒事故をきっかけに、19年から伝説的マン島ＴＴライダーのイアン・ロッカー氏が率いる「Ｔｅａｍ　ＩＬＲ」に加入して活動を続けている。

20年の競技会は感染症拡大直後３月、主催者の迅速な決断で中止が発表された。人口８万４千人、淡路島ほどの大きさの島に、開催期間中は出場チームのライダーやエンジニア、大会運営のスタッフやボランティア、観光客など６万に近い人が押し寄せる。約２８００万ポンド（約36億円）の経済効果もあると試算されており、マン島にとっても損失は決して小さいものではない。

「少し早い発表だが、英国や欧州の今の状況を考えると当然のこと。運営側だけでなく参加者や観戦者にとっても良かったと思う」と話すが、「中止の知らせがあってからは何にも手が付けられなかった」と明かした。

ロードレーサーとなってことしで31年目となる。友人から「バイク以外何も持っていない男」と言われたこともあるが「マン島レースを走るようになり、ようやく褒め言葉だと受け取れるようになった」という。国内レースも相次いで中止となり、人生のすべてをバイク競技にかけてきたという山中さんが呆然自失になるのも当然だ。

初めてマン島レースに出場した時の、プライベートチーム「チームヤマナカ」の１人から「肩のけが（20年８月下旬にモトクロスの練習で右肩や右腕などを骨折）のリハビリ時間がもらえたね。きっといい状態でマン島にいけるよ」と励まされた。この言葉がきっかけで、開催の中止を「どちらに転んでも闇」という状況に差し込んだ「光」だと捉えるようになった。

ＴＴレースの出場希望者は年々増加傾向にあるのに対し、出場枠は小さくなっている。ケガで出場を休めば、予選レースのマンクスＧＰで好成績を出すライダーに招待枠が充てられる。また、体調のコンディションが万全でなければ成績が悪化し、翌年の出場権を失う可能性もあったからだ。

来年のレースに出場するためのスポンサーを探さないとならない状況だが、山中さんの活動を支えているのは馴染みの飲食店や親交のあるバイクショップなど地域の事業者が多い。コロナ禍の影響を受けている店もあり、「この状況でスポンサーに成ってもらうのはお願いしづらい」と渋い表情を見せる。

現在は「体力作りとレースコースのイメージトレーニングに励んでいる」と話す。中止が決まってから主催者は、過去のレース映像や車載映像によるコース解説などを動画サイト「ユーチューブ」で配信している。山中さん自身の走行記録を照らし合わせ、次の出場に備えてコースの確認を怠らないという。

１周60・７㌔のコースは市街地の生活道路や海を見渡す山岳道路などを含む。山中さんの認識では２３３コーナーだが、２５０以上という見方もある。自然の地形をそのままコースにしたためサーキットのようにきれいな線形ではないので、認識する数字がそれぞれ異なるのも当然。それだけ険しい道を時速２００㌔前後で〝安全に〟走り抜けるには、自身の経験を過信せず、コースを下見して路面や道路脇の状況を細かくチェックする必要がある。

以前の取材で「諦めたら始まらない。意志があれば前に進む。それを実感してきた。今の状況はとても苦しい、先の事も考えられない状況かもしれないが、希望を持って前に進むことで、今の状況を打開する何かが見えてくるはず」と話していたことがある。自他共に諦めていた山中さんが、出場さえ困難なマン島レースに５年連続で参加することで証明している。

山中さんは相模原市民に向けて「コロナ禍の厳しい状況ですが、相模原の皆さんが力を合わせれば必ず道は開けるはずです。みんなで頑張りましょう。相模原で、マン島ＴＴレースの報告ができればと思っています」とメッセージを寄せた。

応援のメッセージやスポンサー（協賛金）の申し込みは「山中正之マン島ＴＴレースチャレンジサイト」（https://mcrg-1000.wixsite.com/yamanakamasayuki）へ。