相模原市在住の管理栄養士・今井敦子さんは、野生のシカ肉を相模原産の野菜と一緒に酢豚風に調理した「酢鹿(すじか)秋ver.(バージョン)」を第4回ジビエ(狩猟肉)料理コンテスト(日本ジビエ振興協会)に出品し、入賞を果たした。相模原のジビエを流通させる仕組みづくりを促すため、需要の拡大を図るために市内の素材と組み合わせたレシピを栄養士の目線で考案している。
酢鹿は「軟らかくジューシーにする」ために、ミンチにしたシカ肉に豆腐などを混ぜて肉団子にしたものを揚げ焼きにした。栗やキクイモなど相模原の中山間地域で採れる旬の食材を中心取り入れた。今井さんが勤める特別養護老人ホームの入居者にも提供したところ、「やわらくておいしい」と好評だった。
シカ肉は低脂肪・高たんぱくで栄養価に富み、特に疲労回復効果があるビタミンB群、脂肪の燃焼を助けてくれるアミノ酸の一種「Lカルニチン」などを含む。ダイエット中の人やアスリートのほか、鉄分を多く含むため産後の女性にも勧めていきたいという。
「カロテンと油の相乗効果、さらに酢やケチャップの有機酸と合わせることで鹿肉の鉄分の吸収率が向上する」と管理栄養士ならではの視点も生きている。
今井さんは、猟師の高齢化や人材不足を背景に野生鳥獣被害が増加傾向にあること、一方で捕獲された動物の9割が利用されずに廃棄されていることも知った。「害獣と言われていても、駆除して捨てるだけでは人間のエゴ(利己主義)。命ある資源を余すことなく食べることが大切」と訴える。
ジビエ料理と言えば、狩猟で得た野生鳥獣の肉を使い、フランス料理店のメニューに載る食通好みの高級料理という印象が強い。日本でも、ぼたん(イノシシ肉)やもみじ(シカ肉)などと呼ばれ古くから食されてきたが、一般家庭で食べられるのは一部地域に限られてしまう。
今井さんが提案する「総菜ジビエ」は、ジビエ料理を「だれでも、簡単に作れて、おいしく食べられる」方法。臭く、硬いというイメージがあるが、新鮮なうちに精肉し、切り方や熟成などの手を加えれば滋味深くおいしくなる。「普段の食事の材料として選ばれるようになれば需要が拡大し、狩猟者の成り手も増えるのでは」との期待もある。
食肉としての流通には課題も多い。シカやイノシシの肉を商業ラインに乗せるには狩猟、運搬、加工の方法などで厚生労働省の厳しいガイドラインがある。適切に処理できる施設は県内で伊勢原市と松田町にしかなく、輸送に時間とコストがかかってしまう。
今井さんが使うジビエは、自ら狩猟した野生動物で革製品を作っている竹内陶子さんから、消費しきれない肉を分けてもらっている。「野生動物を捕獲することは獣害対策になるが、皮も無駄なく使うことが大事」と考えが共通する点があり、狩猟から解体までも立ち会ったことがある。
今井さんは起業や事業化する考えはない。市内などでワークショップを開くことが中心で、「特養の入居者に食べてもらい、喜んでもらえれば」と話している。
すでに70種類以上のレパートリーがある。シカの骨から取った上品なダシにせき製麺(緑区青山)のうどんを合わせ、藤野産のゆず、シカのひき肉をトッピングした「鹿骨(しかこつ)うどん」が、次回の農林水産大臣賞(最高賞)を受賞できると期待したい。
【2020年6月1日号】