平塚市美術館の開館30周年記念企画展「物語る 遠藤彰子展」が12月12日まで平塚市美術館(平塚市西八幡1)で開いている。500号(約333・5×約248・5㌢)から1500号(約745・5×約333・3㌢)の大作を描き続ける洋画家・遠藤彰子さん=相模原市南区在住=の作品を集めたほか、新型感染症の収束を願う気持ちを込めた最新作なども展示している。
初公開となる2021年の新作『黒峠の陽光』と、同作と対になる白い絵『雪・星降りしきる』(20年)を中心に、1985年に安井賞した『遠い日』を含む「街シリーズ」など38点を展示している。『黒峠の陽光』と『雪・星降りしきる』は、500号のキャンバスを2枚繋いだ1000号(333・3×497・0㌢)の大作。コロナ禍で展覧会の延期や団体展の中止を余儀なくされる中で、朝から晩まで1000時間以上を費やして完成されたという作品だ。
17日に同美術館で開かれた講演会で、遠藤さんはコロナ禍での創作活動について「もともとは孤独に強いのかしばらく影響を感じなかったが、ずっとアトリエで絵を描くのも刺激がなく辛かった。直接見たり聞いたり、五感を働かせる体験がないと、リアリティーを持った絵を描くのは難しい」と明かした。
刻々と変化する社会状況や日々の想いから生まれたのが、黒い絵『黒峠の陽光』。クモの巣に手を伸ばす少女や鳥、炎をまとう魔物はコロナ禍で先が見えない不安。左上に描かれた小さく光を差し込む太陽は、それでも信じてやまない希望が込められている。
最新作は歌人・葛原妙子の歌「黒峠とふ峠ありにし あるひは日本の地図にはあらぬ」から想像を膨らませた。「峠」は山道を上り詰めたもっとも高い所のことで、上りと下りの境目からどちらに転がってもおかしくない不安定な状況を表した。
遠藤さんは「個人的な欲望やもっとも近くにいる人々への愛に縛られている人間のありさまを描いた。同じ愛でも広く捉えるか否かによって及ぼす影響に違いがあるはず。それを前作との対比として描きたかった」と話していた。
1947年生まれの遠藤さんは東京・中野出身。結婚を機に、都内から自然豊かな相模原市に移ったことから『楽園』シリーズが誕生。このシリーズを機に72年に画家デビューを果たした。
2回目の講演会は、11月28日午後2時から同美術館のミュージアムホールで開催。申し込み方法は、往復はがきの往信用(うら)に住所・氏名(2人まで)・電話番号、返信用(おもて)に代表者の住所と氏名を記入し、「平塚市美術館 遠藤彰子氏講演会(11月28日)係」(〒254―0073 平塚市西八郷1―3―3)へ11月14日必着で郵送する。
11月6日と同20日には午後1時からワークショップ(事前申込制)、12月4日午後2時からは学芸員によるギャラリートーク(申し込み不要)を予定している。
同美術館は観覧料800円(高校・大学生500円、中学生以下と土曜日の高校生は無料)で午前9時から午後5時まで開館(月曜日)。
【2021年10月27日発行号】