北里大や花王などの研究チームは、新型コロナウイルスに対して感染抑制能を有する「VHH抗体」(抗体)を動物に経鼻投与することで、肺における同ウイルスの増殖を抑制する効果を確認した。研究成果の社会実装に向け、すでに日本医療研究開発機構(AMED)のプロジェクトで進めており、3年後をめどに臨床試験を開始予定。時期は明らかにしていないが、花王はAMEDの研究成果などを生かし新型コロナ検査薬への応用も視野に入れている。
今回の研究は、抗体の作用機序の解明や新型コロナ治療薬としての可能性検証を目的に行われたもの。成果を慶応大、自然科学研究機構とも共同し、ハムスターモデルに抗体を経鼻投与することで、肺におけるウイルス増殖を抑制できることを確認。同ウイルススパイクタンパク質と抗体の結合様式を電子顕微鏡による解析で明らかにした。
具体的には、新型コロナウイルスに感染させたシリアンハムスターを、①抗体非投与群、プラセボ2回投与群②抗体投与群、1回投与=感染直前③抗体投与群、1回投与=感染1日後④抗体投与群、2回投与=感染1日後および2日後―の4群に分け、その体重変動と肺におけるウイルス量の比較を行った。シリアンハムスターは新型コロナに感染すると体重が減少する。
抗体を投与しなかったグループ1のみ体重の減少が確認され、新型コロナに感染したことが示された。肺におけるウイルス量は、抗体を投与しなかったグループ1と比べ、残りの3グループでは少ないことも確認。「抗体が新型コロナの増殖を抑制したことが示された」と研究チームは説明する。
今回は経鼻投与を実施したが、初期増殖部位の鼻咽頭、口腔そして肺へ直接治療薬が届き、効率良く治療することができるようになったと考えられるとしている。感染前に抗体を経鼻投与しておくことで、症状の緩和やウイルス増殖の抑制がみられたため、軽症・中等症向け治療薬としてのみならず、予防薬としての可能性も示されたとしており、今後、実用化に向けた検討を進めていく方針だ。
【2022年1月1日号】