地域によるばらつきはあるものの、日本は今、ほぼ4人に1人が高齢者(65歳以上)だ。
我が国の高齢化対策は実質、1989年のゴールドプランでスタートを切ったが、予想以上の進展スピードや財政問題等により幾度となく修正を余儀なくされた。2000年の介護保険制度の導入で一つの枠組みができ上がったものの、当初計画より公的保障への依存度合いを引き下げ、民活や国民の自助努力を求める状況となっている。
フードケア(相模原市中央区相模原4-3-14、竹内豊社長)は、介護保険施行前の97年に創業。「嚥下障害」や「誤嚥」などという言葉が世にほとんど知られていない時代から介護用食品の開発・販売に取り組んできた。
介護保険施行をめぐっては、関連ビジネスへの参入が相次いだが、計画ほど安定した収益が見込めなかったり、強引な営業があだとなって撤退した企業も少なくない。そんな中で同社が順調に成長し、国内の病院や福祉施設への納入シェアが今やほぼ100%という実績をあげるに至ったのは、老舗のアドバンテージ以上に竹内社長のプロフィールによるところが大きい。
同社長は大阪市立大学商学部を卒業後、製薬メーカーで営業を7年、福島県内の病院の事務長を1年務め、さらに大手食品メーカーの社内ベンチャー介護用食品の開発・販売に10年間携わり、独立起業した。客に直接関わる営業の仕事を求めて歩んだ道が伏線となり、人として純粋に社会貢献できる上に長期的展望が見込めるビジネスと出会うこととなったのである。
とはいえ、当初は介護用食品の価値を客に理解してもらうのに苦労した。
「介護の情報などほとんどなく、誤嚥の防止にとろみをつけた食品が役立つといっても理解されない時代。最初の取引先は重度障害を持った子どもを預かる施設だった」と竹内社長は振り返る。
今でこそその効用は誰もが認識するが、介護用食品にはもう一つ大きな社会的役割がある。かむ力、のみ込む力が衰えた高齢者でも、口から食物を摂取することでQOL(クオリティ・オブ・ライフ=尊厳を保ち得る人間らしい生活)を保てるという精神的な価値だ。この面での認知度はまだまだ低い。
このまま少子高齢化が進めば、20年後は3人に1人、40年後には5人に2人が高齢者になると推計されている。その一方で、厚労省は公的な医療・介護サービス事業の中心を施設から在宅へと移行させ始めている。
こうした中、従来は施設への業販主体だった介護用食品が最近、ユニバーサルデザインフードとして大手スーパーなどで小売りされるようになった。
「大きな進歩だと思うが、特定の棚に並べられていては、買う方も人目が気になる。一般食品と同列で販売されてこそバリアフリーとして本格的な普及が見込めると思う」と話す竹内社長の視線の先には、既に超高齢化社会があるようだ。