広域自治体(都道府県)と基礎自治体(市町村)の二層から成る地方自治制度、いわゆる「二重行政」の解消を目指す特別自治市構想を巡り、神奈川県が「法制度化することは妥当ではない」などとする見解を示したことを受け、相模原市など県内3政令市長が17日にオンライン会議で意見を交換した。全国最多の3政令市(相模原、横浜、川崎)を抱えているが、政令市側が指摘している二重行政について「法令による役割分担や住民ニーズに基づいている」と否定している。【2022年3月23日号】
県は理由を「指定都市市長会等が主張する理由(根拠)自体に合理性がなく、また仮に実現した場合、県内全域における行政サービスが大幅に低下するなど、現在の指定都市域の市民を含む県民生活に大きな影響を及ぼすおそれがあるため」とした。
これについて、3市長は連名で「日々、多くの住民サービスの提供を担っている基礎自治体である三市の現場の実態・実感と大きくかけ離れたものであり、到底容認できるものではない」と反論する声明を出した。「持続可能な行政運営に向けた県と指定都市の役割分担」との調整協議の場を設けるよう知事に求めている。
特別自治市は、政令市が道府県の事務・権限を担う制度で、都府県と政令市の重複する業務「二重行政」を解消して人員やコストを縮小できると期待される。ただし、現行の地方自治法に類似した制度がなく、全国20政令市でつくる指定都市長会が法制化に向けた動きを強めている。
県の見解では、これまでも政令市から指摘があれば、県は指定都市と調整会議を開いた上で、パスポートの発給事務など権限移譲を実現してきたと主張した。税財源の移譲に関しても、地方税財政制度全体の課題であることから、地方が連携して国に解決を求めるべき課題。地方全体が財源不足の中で、単に市域の税財源すべてを政令市に移譲することでは根本的な解決にはならない」としている。
県が相模原市域内に持つ施設は警察関連施設や公園など127施設で、財産価格1493億円(土地約1050億円、建物約442億円)を超える。市には県有施設などの移管費用や債務の引き受けなどが発生すると想定。構想の実現には多額の費用負担が生じると考えられ、「特別自治市への移行に要する費用と、その負担の考え方が明確にされておらず、政令市住民などの費用負担について説明が不足している」と指摘した。
県は政令市と一層の協調連携を図り、個別の事務・権限における課題があれば「指定都市都道府県調整会議」を十分に活用するなどとし、「現行制度の下でしっかり取り組んでいく」との考え。現行制度で解決できない行政課題が認められた場合には、「その解決のために、どのような地方自治のあり方が望ましいのか、県民や議会、県内市町村とともに議論を深めていく」との姿勢もみせた。
指定都市市長会会長の鈴木康友浜松市長は、神奈川県の見解について「現場の実態と実感を理解していないものであると言わざるを得ない」と指摘している。
横浜市は2回、川崎市は1回、それぞれの市長と知事による調整会議を開いているが、相模原市はまだ実現していない