神奈川の山林や花粉症患者の「ミライ」照らす希望の品種となるか―。県の自然環境保全センター(厚木市七沢)が全国で初めて発見した無花粉ヒノキ「丹沢 森のミライ」は、15日に農林水産省の品種登録で公示された。存続期間は30年。2027年度までに花粉症対策苗木の年間生産目標15万本のうち、1割を無花粉苗木(スギ含む)とすることを目指す。【2022年3月23日号掲載】
同センターによると、登録品種「神奈川無花粉ヒ1号」は雄花をつけるものの、減数分裂時の異常により正常な花粉が形成できず、花粉嚢(のう)が開かないため花粉が飛散しない。花粉を飛散せず種子も不稔となる「両性不稔品種」だが、さし木で苗木を生産することができる。
無花粉ヒノキは、ヒノキの基準品種である「ナンゴウヒ」と比べて冬期の葉色が黄緑色であるという差異がある。一方で初期(5年時点)の成長量に大差はなく、「材質にも大きな欠点はない」としている。
今後は、さし木の採穂園を同センター内に整備し、順次生産を拡大する計画。すでに苗木の生産者の県山林種苗協同組合と許諾契約を締結し、21年春に「丹沢森のミライ」の愛称で苗木の初出荷を行い、同年7月に秦野市内に132本を植栽。今春にも165本全量が出荷された。
ヒノキはスギと共通する抗原性を持つため、スギ花粉症患者の7、8割程度はヒノキの花粉にも反応するとされる。スギやヒノキなどの人工林が森林面積の約4割を占める県は、05年から花粉の少ないヒノキを生産してきた。11年からは2年間に渡り県内のヒノキ林で4074本を調査した結果、12年春に秦野市内の山林で花粉を飛散しない1個体を発見した。
「丹沢 森のミライ」という愛称は、山で植樹などに携わる人から寄せられた136点の応募の中から、最終的に黒岩祐治知事が選んだもの。黒岩知事は「花粉症のない快適な未来を予感させる名前で、新しい品種であることを感じさせる」と期待感を語った。
雄花をつけるが花粉を飛散しない無花粉スギは、1992年に富山県で最初に発見され、全国でも20本以上が確認されている。県内でも2004年に「田原1号」として発見し、すでに苗木を生産しているが、無花粉ヒノキの発見は報告されていなかった。