相模原市に宇宙探査の拠点「宇宙科学研究所」を有する宇宙航空研究開発機構(JAXA)が小惑星探査機「はやぶさ」、同「はやぶさ2」に続いて打ち出した小型月面着陸実証機「SLIM(スリム)」に、従業員数6人の中小製造業の技術が採用される。【2022年4月13日掲載】
大和市内を通る相鉄線と小田急江ノ島線が乗り入れる大和駅で降りて、5分ほど歩いた住宅と商店が入り混じる地域にその会社はある。2005年9月に松田町で設立したエクストコム(東大和1)は、モーターなどの回転角度や位置を検出する「変調波レゾルバ」や「ロータリーエンコーダー」を専門に開発・設計等を手掛けている企業だ。
3月15日に開かれたJAXAの記者会見では、SLIMに搭載される移動探査ロボット「LEV1」のアクチュエーターユニットに同社の製品「超薄型」変調波レゾルバが採用されることが発表された。同社は昨年春に実験用と搭載用の2個を宇宙科学研究所に納品している。
千野忠男社長はLEV1への採用を相模経済新聞の紙面で知ったといい、取材に「月面探査に採用され驚いた。ミッションの成功を祈っている」と答えた。
宇宙探査の分野では、高温・低温、強い宇宙線(放射線や電磁波)などにさらされる過酷な環境で、重力や空気がある地上より精密な制御が必要とされる。同社の変調波レゾルバは巻きコイルを使用しないため他社の一般的なレゾルバに比べて構造がシンプルで、振動や衝撃、粉じんなどに強いという特徴がある。
月の重力は地球の6分の1。温度は赤道付近で昼が110度、夜は氷点下170度と、差は280度ほどある(JAXA)ため、部品の素材の膨張率をほかの機器と合わせたり、真空状態でガスが発生しない樹脂や接着剤を使用したりする必要がある。
LEV1に採用された「超薄型」の変調波レゾルバは、コインよりも小さく薄い外形15㍉(ケーブルやコネクターを除く)、厚さ2・5㍉でありながら、分解能8192(360度を8192分割して検出できる精度)を持つ。JAXAの協力で本体ケースやケーブルの素材から、接着剤に至るまでを見直し、氷点下50度から240度までの幅広い温度帯、放射線などに耐えられる性能とした。
SLIMは有重力天体へのピンポイント着陸が主要な任務だが、探査計画の高頻度化のために低コスト化・省力化を検証することも目的の一つ。同社の変調波レゾルバは元より小型で軽量であるため、JAXAから提示された条件を円滑にクリアできたという。
同社は国際宇宙ステーション(ISS)と地上局の双方向光通信に向けた実験装置「SOLISS(ソリス)」にも変調波レゾルバを供給。同装置はソニー系研究所の開発で、19年9月に補給機「こうのとり」8号機で打ち上げられ、日本実験棟「きぼう」の船外実験プラットフォームに設置されている。
同社は11年にJAXAからの声掛けでオープンラボに応募、16年に宇宙探査イノベーションハブに参加している。千野社長は「JAXAが認定する信頼性は強い」と力説する。
コラボレーションから生まれた製品・技術「JAXA COSMODE」に認定された後、自動車部品メーカーやカメラメーカーなどから量産化に向けた申し入れがあった。人工衛星や探査機を製造している宇宙関連産業からの問い合わせも数件来ている。JAXAから2年後の計画参加へのオファーが2件も来ており、すでに製品の納品に向けて動きだしている。