相模湖近くに住む皮製品職人として狩猟などにも携わってきた竹内陶子さん=相模原市緑区若柳=は、シカやイノシシといったジビエ(狩猟によって捕獲された野生鳥獣)肉を使った総菜をキッチンカー(移動販売車)で販売する取り組みを始めた。シカやイノシシの野趣あふれる力強い香りを楽しむことができる。土日祝日などを中心に、宮ケ瀬湖湖畔の鳥居原ふれあいの館(同区鳥屋)で定期的に営業する。
店名は「山賊ベイビーズ」。「山賊」には山あいに住んで野生鳥獣を捕らえ、その肉や皮などを利用して生計を立てていた狩猟民としての意味合いを込めている。
野生動物は時期によって食べるものの種類や量が変わり、肉の質や脂の乗りも変化する。竹内さんは「季節ごとの味や質の変化を楽しんでほしい」と話す。
イノシシ肉などを使ったコロッケ(200円)、シカ肉の肉まん(400円)とシュウマイ(1個100円)のほか、麦茶に自家栽培の木の芽(山椒の葉)を載せた「薬膳茶」(100円)なども提供(価格は物価の変動で調整あり)。カウンターには世界トップクラスの激辛唐辛子を国内などで生産する夫・僚さんのスパイスや、自家製山椒入りのソースなどを用意しており、客自身に好みに応じて調味してもらう。
使用する肉は、静岡県や長野県などで捕られ、食用に専用の施設で処理されたもの。加工や調理も業者に委託しているが、シカ特有のうまみや風味を生かした料理になるよう試行錯誤を繰り返して完成させた。相模原市やその近隣にジビエの食肉処理施設が整備されるまでに、シカやイノシシの肉に慣れ親しんでもらおうとの狙いもあるからだ。
結婚を機に若柳に住んだ竹内さんは、牛革を使った靴や小物を作っていたが、自家菜園が野生動物の食害に遭うようになったことをきっかけに狩猟免許を取得。自身で捕獲したシカなどの革を使って、子供向けの靴や、小物などを作るようになった。獣害対策の現場に立ちながら、人や野生動物の関わり方について伝える活動にも取り組んでいる。
「奪った命は余すことなく有効に活用したい」との思いから、ジビエを使った屋台などの出店を検討していたところ、キッチンカーで集客を図ろうとしていた鳥井原ふれあいの館の呼び掛けがあった。鳥居原園地を訪れる客(駐車場利用者36万4千人)のうち、ふれあいの館の利用者は36%(13万3千人)程度。駐車場と同館の動線を結ぶ位置に店を出すことで、同館の利用者も増やしたい考えだ。
2日のプレオープンは、日中の最高気温が35度を上回る天気。午前10時から昼頃に宮ケ瀬湖畔への客足が伸び悩んだこともあって、売れ行きは不調だった。
肉まんとコロッケを購入した36歳男性=市内在勤=は「癖がなく食べやすい。特にシカは牛や豚とは違った風味があり、肉まんにすることでその独特な味を巧みに閉じ込めている」と話していた。
軽トラックの購入費やキッチンカーへの改装費、調理器具、料理の開発費などとして約500万円を投じた。販売目標は1日当たり各100個。