余すことなく「命」をいただく/獣害対策の現場に密着(上)


相模湖近くの若柳地区に住む竹内僚さんから、電子メールで「猟師(狩猟者)仲間の罠に鹿(シカ)がかかったので、明日(12日)仕留める」と連絡があったのは、前日の午後6時過ぎだった。相模原市緑区の山間部では、シカやイノシシなどが畑の作物や樹木の樹皮などを食い荒らす「食害」が後を絶たない。10日に降った雪がまだらに残る12日、相模湖近くの農作地(畑)でシカが罠(わな)にかかり、僚さんと陶子さんの竹内夫妻が仕留めた。「獣害駆除の現実をできる限り生の状態で伝えたい」と考え、本紙記者も同行した。【2023年2月20日号掲載※詳細な描写があります。苦手な方はお控えください】

参加した8人(竹内夫妻と記者を除く)が、竹内さんの自宅近くに集まったのは午後3時ごろ。市職員とその家族、太陽光発電の事業者、管理栄養士資格を持つ料理研究家など多様な顔ぶれ。野生動物の資源化や狩猟の現状などを把握しようと参加したという。

罠にかかったのは、メスのニホンジカ。相模湖下流の河岸段丘上の農作地で捕獲された。野生動物の食害に困った所有者の男性が「くくり罠」(ワイヤーで獣の足をくくる罠)を仕掛けていた。

罠にかかったシカに猟銃を向ける陶子さん

罠にかかったシカに猟銃を向ける陶子さん



陶子さんが散弾銃(ショットガン)を構えてから2~3分後、それは一瞬だった。ドンという大きな音が鳴った瞬間、それまで辺りをキョロキョロと見まわしていたシカは、頭を地面に着けて動かなくなっていた。

使用した弾は、複数の小さな鉛玉を飛散させる散弾(いわゆるバードショット)ではなく、「スラッグ弾」という一つの大きな金属弾を打ち出すもの。近距離では大口径ライフル並みの威力があり、頭部の骨に直径20㌢ほどの穴を空け、脳を吹き飛ばしていた。

少し大きな犬程度の大きさで痩せているように見えるが、体重は80㌔程度。脚と首にロープをかけて大人の男4人がかりで、雪が残る畑のあぜ道を運んだ。

見学者の前で捌き方を説明する僚さん

見学者の前で捌き方を説明する僚さん



血が抜けやすいよう頭を下に向けて、皮を剥いだ後肉が地面に着かないように竿に吊るす。「膀胱を破ると尿が出て、肉や皮の品質を落とす」との説明に頷きながら、内臓を傷つけないように慎重に腹を裂いていく。

数十分前まで生きていたため、内臓は湯気が立つほど温かい。腸や肝臓、腎臓、胃、心臓、肺と取り除いていく。肝臓はレバー、心臓はハツといったように、いわゆる「ホルモン」なので、丁寧に下処理を行えばこれらも料理に使える。

後ろ脚からナイフで皮を剥いでいき、首に達した時点でのこぎりを使って頭を切り落とす。部位ごとに切り離していき、肩ロースやモモなどいわゆる枝肉になっていく。参加者は口々に「皮が剥がれて、頭もなくなると肉にしか見えない」と語っていた。

鹿を撃って、枝肉になるまで約3時間。竹内さん夫妻なら1時間半~2時間程度かかる。

枝肉と内臓の一部は参加者らで分け、皮はなめして陶子さんが革細工に利用する。食べない内臓は、軽く土をかけて山中に埋めた。タヌキやハクビシンといった小型の肉食動物が掘り返して食べ、余ったものもやがては微生物が分解して土に還る。極力利用し、使わないものは自然に返すという考えだ。(下編に続く)

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