相模原市内でロボットなどの受託開発を手掛ける「F―Design(エフデザイン)」(中央区上溝)は2日、開発済みの車輪移動型ロボット(ロボットベース)に溶液噴霧機構を搭載し、施設農園での活用について有用性を確かめる実証実験を行った。同区大島地内の農地に設置されたビニールハウスに農作物に見立てた的を設置し、凹凸や障害物がある通路での走行の安定性・旋回性、液体噴霧機による散布機能の効果を検証した。【2023年3月10日号掲載】
ロボットベースは、磁気を帯びた線を読み取りながら走行する「ライントレース方式」で自動走行し、舗装されていない農業施設内の地面でも比較的高い走破性能を発揮する。土などで汚れてもトレースが可能。実験では時速0・9㌔程度で走行したが、時速1・8㌔程度まで出せる。
大手も自律走行ロボットを開発しているが、点字ブロックや配線モールなど数ミリの段差でも回避することを前提としていることが多い。藤本恵介社長は「それでは使い勝手が悪いので、弊社のロボットベースは段差を走破できないと意味がないと考えて開発している」と説明する。
同社がロボットに参入したのは、約10年前に市からの勧めで。創業した2006年当時は、特殊車両やエンジン、それらの製造機器などの設計を中心に行っていたが、08年のリーマンショック以後は一般・産業機器や医療機器、アミューズメント機器などと受託の裾野を広げている。
藤本社長は「ピンチはチャンス。コロナ禍では仕事がなくなり売上が3分の1になったが、ロボットを開発する時間ができた」と振り返った。
車両設計で培ったノウハウを生かした高い旋回性も、このロボットベースの特徴。本体の中心を軸に2輪のタイヤで旋回するので、人が通れる幅の通路(70㌢前後)であれば走行・旋回が可能。ロボット導入を前提とした施設建設や導入を見据えた改修なども、ほぼ必要ないとする。
今後の課題について、藤本社長は衝突防止機構などの安全性と、操作性などのユーザビリティーの確保に加えて、タンクの容量も挙げる。「タンクを大きくすると、われわれの強みがなくなる」としながら、「大きいビニールハウスでも容量を確保できる方法を検討している」とした。
実験で得られた結果を試作機の改良に生かし、年内の商品化を目指す。販売価格は200万円台を見込む。トマトやイチゴなどをハウス栽培する農家をターゲットとしている。
同社によれば価格設定も悩みどころ。不足する人手を補うロボットだが、将来的に人手がなくロボットに頼るのが当たり前になる可能性も。使用する農家にとって分かりやすい目安として、人件費と比較するのが現状だ。
今回の実証実験は、さがみロボット産業特区の取り組みの一環で、開発プロジェクト総合支援事業の採択を受けた2件のうちの1件。同社は支援機関のさがみはら産業創造センター(SIC)から、実証実験のほか、資金計画の立案、実行計画の策定、市場・技術動向の調査など多面的な支援を受けている。