神奈川、山梨、静岡の3県などで構成する富士山火山防災対策協議会は3月29日、大規模噴火による被害や影響が想定される地域の新たな避難計画をまとめた。現象の特性や火口からの距離を踏まえ、原則として事前の避難行動は行わない方針とした。相模原市では噴火口の位置や溶岩流が流下する向きによって緑区の一部に影響が生じる恐れがある。【2023年4月13日号掲載】
□対象住民は5千人
14年にまとめた現行の広域避難計画に代わって「富士山火山避難基本計画」として策定。2021年に改訂された富士山ハザードマップ(災害予測地図)で噴火の影響範囲が広域となったことを踏まえ、避難方法の根本的に見直した。県内では溶岩流、融雪型火山泥流、降灰とその後の土石流が避難の対象になる。
小板橋聡士副知事は「対象の市や町は、これから新たな避難計画をもとに、地域防災計画や避難マニュアルなどを整備することが必要。県も指針をもとに、市や町をしっかり支援したい」と話した。
北東側の噴火口から、記録上最大とされる貞観噴火(864~866年)並みの溶岩噴出(13億立方㍍)があった場合、溶岩流が40㌔以上離れた市境に到達する最短時間は、噴火から277時間(9日11時間)後で、第6次避難エリア(7~57日後に到達)に指定されている。県内(3市4町)の避難対象人口は約10万6千人と推計し、そのうち市内(旧藤野、旧相模湖)では4852人に上ると見込む。
溶岩流はJR中央本線や中央自動車道などにも達し、市民の通勤・通学や物流などにも影響を及ぼす可能性がある。建物などを焼失させる危険な現象だが、勾配がなければ人が歩く程度の速さとなる。必ずしも遠くに避難する必要はなく、流れる方向とは別の方向に逃げることが効果的としている。
県内でもっとも早く到達すると想定される山北町でも33時間かかると見込まれており、避難開始まで1日以上の猶予があるとする。
□県も避難指針策定
県は同日、同計画の策定を受け、神奈川県版の「広域避難指針」を策定した。溶岩流の到達を想定し、車や徒歩での避難だけでなく、影響が広域に及ぶ場合は県独自に「遠方への早めの移動を念頭に、公共交通機関を利用する方針」も打ち出している。
指針では、市町からの要請に基づく被災者支援や、広域避難に必要な移動手段の確保などについて、県が一元的に調整するとした。避難先の自治体との調整は各市町に委ねられており、事前に協議を行って避難先を確保する必要がある。溶岩流の影響は噴火口の位置などに左右されるため、各市町村は気象庁の警報、警戒レベルや状況などを確認して避難の必要性やタイミングを判断する。
防災行政通信網を今年度までの予定で再整備を進めている。災害発生時に市町村や消防に配備した専用のスマートフォンでの映像や情報の共有、連絡調整ができるようになると想定している。
降灰について、今回の指針では考慮していないが、国が処理の方法や避難のあり方など検討を行っている。降灰後に土石流が発生する恐れもあるが、国や同協議会などによる検討内容を踏まえた上で、必要に応じてワーキンググループで検討し反映する。