「だれでも宇宙で活躍できる社会」。宇宙航空研究開発機構(JAXA)などが共同開発した低コストのロケット固体燃料である「低融点熱可塑性推進薬(LTP)」を活用するベンチャー企業「ロケットリンクテクノロジー」(相模原市中央区由野台)が7月上旬に発足。記者会見をウェブで開き、北海道内で宇宙関連事業を手掛ける植松電機(北海道赤平市)と同市で協力協定を結び、新型ロケットの開発を進める計画を明らかにした。現在の半分のコストでの衛星打ち上げを目指す。【2023年9月1日号掲載】
ロケットリンクの森田泰弘社長は、社名の「リンク」の由来に触れ「ロケット技術を応用して産業の振興や教育・人材育成に貢献したい。ロケット開発を通じて人と人を繋げ、宇宙で活躍する仲間を増やす」と意気込みをみせる。同社はJAXA初のベンチャー企業で、大学や民間企業と共同体を形成して15年余り研究・開発を進めてきた。
同社によると、キーテクノロジーとなるLTPは熱を加えると比較的低温で溶け、1日程度の自然冷却で固まるのが特徴。形が崩れた場合も再加熱することで再充填や不具合の調整、残った推進薬の再利用ができるため、町工場のような一般的な製造設備での小規模連続生産・保管が可能となる。
一方、従来の固体燃料は火薬の粒を混ぜた半液状の樹脂「バインダー」に熱を加えて2~3週間かけて固めるため、大手メーカーしか作れず作り直すことが不可能だった。ロケットリンクはそれぞれの特徴からLTPを菓子の「チョコレート」、従来燃料を陶器などの「焼き物」と例えている。
燃料だけでコストを比較すると、従来の10分の1に抑えることができ、ロケット開発費も含め、現在の半分のコストでロケットの製造販売を視野に入れる。2017~20年は年間で200機以上の小型衛星(50㌔以下)が打ち上げられ、29年までに1000機に増えることが予測されていると説明する。
ロケットが不足して、複数の衛星が同じロケットに相乗りする現状について、森田社長(JAXA教授)は「ロケット開発の難易度を下げ、だれでも宇宙に挑戦できる環境をつくりたい」と語る。
LTPの特許はJAXAと千葉工業大、樹脂メーカーの型善(愛知県大府市)が共同で保有し、JAXAで開発に携わっていたメンバーが4月にロケットリンクを設立した。JAXAの特許を利用できるJAXAベンチャーに認定されている。
これまでも植松電機と協力して、赤平市と大樹町で全長約2㍍のロケットを最高高度1㌔まで飛ばしており、24年に高度10㌔に挑む。北海道で実験を重ね、28年には全長15㍍前後のロケットで高度500㌔前後の軌道に到達させ、量産につなげる計画だ。