【神奈川県内】観客が裁判員を疑似体験できる演劇「極刑」、横浜市内で上演/「自分事として考える機会に」


観客が裁判員として参加する裁判演劇「極刑」が1日、横浜人形の家・あかいくつ劇場(横浜市中区)で上演された。裁判員制度は2024年5月で導入15年を迎えた。また、23年からは20歳以上だったのが高校生などを含む18歳以上まで裁判員対象者となった。演劇は架空の強盗殺人事件の裁判員裁判に、観客が裁判員となり参加して判決を下す。約300人の観客が「死刑か無期懲役か究極の選択」を迫られる裁判員裁判を疑似体験した。【2024年6月10日号掲載】

観客が「裁判員」となる参加型の舞台演劇

観客が「裁判員」となる参加型の舞台演劇



他の観客もスマートフォンのチャット機能を使って、被告人らへの質問や意見、疑問に思ったことなどを自由に書き込むことができ、裁判長が観客からの質問を代読することで、観客全員が裁判員として参加できる。

裁判員からの質問にはそれぞれの役になり切った演者がアドリブで答える。参加する観客により、質問内容や判決も変わる。まさに筋書きがないのが特徴だ。

演劇の内容は、横浜市鶴見区で起こった架空の強盗殺人事件。借金に追われ暴力団員から脅迫を受けていた男が、元勤務先の会社社長とその妻をナイフで殺害し現金を奪って逃走。その後、多額の借金の債務整理を弁護士に依頼した際に自らの犯行を打ち明け、事件発生から半年後に、弁護士と共に警察署に出頭したという設定。

観客には入場の際、起訴状や犯行状況、被害者の死因など事件の経緯が詳細に書かれたパンフレットが配布される。

裁判劇では検察官は死刑を求刑。弁護士は死刑を回避すべきと主張。争点となったのは、被告人は殺害した2人のうち、1人への殺意はなかったと主張。参加者からは「殺意が無ければ、なぜナイフを所持し取り出したのか」との質問に、被告人は「ただお金を盗むだけで、見つかったらナイフで脅して逃げようと思った。相手が突進してきて気が動転してパニックになった」と証言するなど、シナリオのない裁判劇が進んでいく。

3時間の上演最後に、裁判官3人と裁判員6人は別室で評議を行った。他の観客はスマートフォンから投票。会場の結果は無期懲役78%、死刑22%だった。投票結果も踏まえ評議される。

この公演回の判決は、被告人は前科がなく、犯行に計画性がないこと、更生の環境が整っていることなどから「無期懲役」が言い渡された。

参加した同市内高校1年生の男子生徒は「ニュースだけでは事件の被害者や加害者の心情はわからない。事実は1つでも解釈は複数ある。両方の話しを聞いて、人を裁くのは簡単ではないと感じた」と感想を語った。

23年4月から裁判員対象者が20歳以上から18歳以上に引き下げられたことについては「自分の意見や判断で、人の人生が変わる重さを感じた。もし自分が18歳で選ばれたら怖いと思う」(同)と話した。

観客のチャットの書き込みには「被害者遺族の感情を考えれば死刑しかありえない」「殺人は何をもっても償えない。無期懲役が妥当」「更生とは一体何か」など、さまざまな意見が書き込まれた。

主催したのは模擬裁判や模擬投票など法教育活動に取り組む一般社団法人「リーガルパーク」(東京都渋谷区)。23年1月に東京で初上演し、これまで5公演を開催。県内での上演は初めて。

公演の思いを語る主催者の今井弁護士

公演の思いを語る主催者の今井弁護士



元検察官で代表理事の今井秀智弁護士(東京弁護士会)は「人によって見方や考え方は違う。裁判はだれが選ばれても同じ結論になるわけではない。人が変わると判決が変わる。裁判員制度を自分事として考える機会にしてほしい」と語った。

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