【相模原、座間】県弁護士会相模原支部、30周年記念で講演と討論/「合議制導入」や「子どもの保護」テーマに


相模原市と座間市の弁護士が所属する県弁護士会相模原支部は14日、相模原市中央区中央3の市立産業会館で30周年企画として「相模原支部のこれまでとこれから」と題した講演とパネルディスカッションなどを開いた。横浜地方裁判所(横浜地裁)相模原支部(同市中央区富士見)に合議制裁判の導入を求める活動や災害復興支援などの取り組みを報告したほか、県立上溝高校の教諭や生徒2人を交え、「子どもたちの保護」をテーマとした討論も行った。【関連記事あり、2024年9月20日号掲載】

齋藤支部長

齋藤支部長



齋藤守支部長は同企画について「弁護士に『敷居が高い』『態度が大きい』『相手を論破することに生きがいを感じている』などというイメージを持っているかもしれない。少なくとも、支部に所属する90人の弁護士は『困っている人を助けたい』という思いで仕事をしている。マイナスのイメージを払拭していただけると確信している」と期待した。

3部構成で、各部の冒頭には支部所属の弁護士・板橋勇太さん、瀬野陽仁さんによる漫才コンビ「ろいや~ず」が漫談を披露。若手漫才師の日本一を決めるM1グランプリに出場した実力を見せつけ、会場を和ませた。

市内の弁護士2人で活動するお笑いコンビ「ろいや~ず」

市内の弁護士2人で活動するお笑いコンビ「ろいや~ず」



 □合議制裁判の導入

合議制裁判は、1人の裁判官が審理する単独制に対し、3人の裁判官の協議によって事件を審理する体制をとる裁判。「慎重な審理が期待できること」や「記録を整理しながら議論を進めることで迅速な判断に行き着くこと」を利点とする。

対象となる事件は、殺人・放火のなどの重大な刑事事件、被害者の身柄を拘束する勾留決定に対する不服申立の審理などのように法律で定められたもの。また、医療過誤事件や労働争議、建築紛争のような、争点が複雑で判断の難しい民事事件も裁判所の判断で扱う。

合議制が導入されていない問題点について①横浜にある地裁本庁まで行かなければならないこと②裁判の長期化③刑事事件おける身体の開放が遅れる―の3点を挙げる。時間と費用がかかるため司法救済を諦める人もいるほか、医療過誤や建築紛争など難しい民事訴訟事件は判断が地裁本庁に送られる「回付」となる可能性があり、審理が一からやり直しとなったケースもある。

特に身体開放について、相模原支部の裁判官が逮捕されている被疑者のさらなる拘留決定をした場合、被疑者が不服申し立てを行うこと(準抗告)がある。準抗告の判断は合議制のある地裁本庁が行わなければならず、事件の記録を地裁に輸送する時間がかかる。

同支部は「労働者にとっては解雇のリスクが高まり、家族がいれば家事、子育て、介護はどうするということになる。身体の拘束は個人の自由を大きく制約するもので、合議制があるほかの地域と比べて開放に時間がかかることは、見過ごせない人権に関わる問題」と訴える。

同支部の地方司法改革委員会の加藤哲委員長は「事件の当事者となる市民に負担や不利益が生じる」とし、「迅速で質の良いサービスが地域の裁判所で受けられない状態にある」と強調した。

 □災害復興支援

県弁護士会災害対策委員会では、会内部の災害対策のほか、被災した地域住民の支援として法律相談を中心とした活動を行っている。被災者支援としての相談会は法律相談に限らず、その災害に関連するものであれば困りごとを何でも受け付けるスタイル。隣県で発生した台風被害でも県弁護士会から弁護士14人が参加し、ほかの士業と連携しながら相談に応じた事例を報告した。

同支部法律相談事業活性化委員会では、2019年の台風被害で、被災者の相談に対応する市臨時災害合同専門相談会4回開催し、弁護士、司法書士、行政書士の法律の専門家が不動産鑑定士や建築士など他分野の専門家とペアを組み、津久井地域の住民からの相談計56件に対応した。土砂災害に関する内容が大半を占め、自宅から隣地への流出や隣地から流入した土砂による被害に、撤去費用の負担のあり方、今後の災害対策や工作物の倒壊について相談が寄せられた。

県弁護士会が取り組む災害復興支援を演じる模擬法律相談も披露した。深夜に発生した震度6の地震で自宅の屋根瓦が落ち、隣人の乗用車に損害を与えたため修理費を請求されたという設定。建築確認の申請を行っていた火災保険に加入しているが、元宮大工の祖父が建築確認を怠って増築したため、保険会社から支払いを拒まれたという流れ。現実でもありそうな設定にうなずく参加者もいた。

 □子どもたちの保護

「高校生に対する虐待を考える」とテーマに、上溝高校2年生の江成実里さんと同・工(たくみ)義人さん、森下和彦教諭、市児童相談所総務課の富岡重樹課長が自身の経験や調査データなどを交えながら討論した。

子どもの虐待について議論した高校生や教育関係者ら

子どもの虐待について議論した高校生や学校関係者ら



同高校では、年に6~7件の虐待を把握しているといい、登校しても保健室に通う生徒や顧問を受け持つ部の部員から「家でご飯を出してくれない」「家のものを食べなくて、バイト代だけで食事している」と聞くこともあるとする。進路選択で親と揉めて手を出され、その後も暴行が続いていると深刻な相談も時々あると報告した。

児童相談所では15歳以上(高校生やフリーターなど)からの相談が10・9%(179人)を占める。保護者が子供を無視や脅迫などする「心理的虐待」が55・9%とも多く。一方、性的虐待(0・8%)は把握が難しく潜在的な被害がより多い可能性があると指摘する。

虐待把握の難しさについて、森下教諭は「家庭で起きていることで学校では把握しにくいところもあるが、思春期特有の問題でもある」と触れた上で、「回りからの目を気にしたり、弱い自分を周囲に知られたくないという思いもあるようだ。教員やカウンセラーが相談したい気持ちで接しても、放っておいてほしいとか、大事にしたくないと断られるケースが多く、大人に相談しづらいとなっていると思う」と分析を深めた。

これに対し、生徒らは「かわいそうな子という同情を持った目で見られたくない」「悪目立ちしてしまうことで、クラスで居心地が悪くなる」などと明かす。

「虐待を把握するために、どのような取り組みを行うべきか?」という問いには、学校や家庭からの通報が頼りとなるが、市外から登校する生徒もいることが実態把握のハードルとなっているという。富岡課長は「虐待かなと確信が持てないことでも、児童相談所に相談してほしい」と話す。

生徒から「先生との職務としてではなく、1人の人として向き合ってほしい」との声があったが、森下教諭は「相談しやすい先生を目指すと、教師の仕事は本来生徒にとって嫌なことをさせることが多い。相談できる関係を築くのは距離感の作り方が難しい。人と接し過ぎると教師としての道を外しかねないが、信頼を得ることは大事だろう」と指摘した。

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