製品、建築、ソフトウエア、サービスなどさまざまな物事を対象に優れたデザインを顕彰する「グッドデザイン賞」(日本デザイン振興会主催)の2024年度の結果が発表された。相模原市内企業からモビリティデザイン工房(緑区西橋本5)のほか、建築では幼稚園「認定こども園 津久井ケ丘幼稚園」(同区長竹)、物流施設「GLPアルファリンク相模原」(中央区田名)、集合住宅「イル・シエロ」(南区相模大野3)などが選ばれた。【2024年11月1日号掲載】
□市と地域住民が連携
モビリティショデザイン工房などがデザインを担当した駅舎・駅前広場「柳ケ浦駅周辺地区整備」(大分県宇佐市)は、地方都市の小さな駅であるが、近隣高校の利用も多く、その潜在的可能性を生かした再整備が望まれた。市民が日常的に交流する「まちの結び目」をコンセプトに、地域や学校との継続的なまちづくり活動を進め、駅舎や駅前広場を一体としたデザインを行っている。
リノベーションした新たな待合室は既に高校生や地域住民などの日常的な居場所となっており、駅前広場では多目的室(総合案内所)を核とした施設管理の委託事業者と市が連携した利活用が企画されている。
構想策定から施工完了までの約10年間、都市・土木・交通・建築・まちづくりの専門家チームを編成。駅周辺地区における課題を総合的に解決していく行政・市民・事業者・専門家による検討体制を築いた。特に市民が駅まちづくりに参加できるプロセスを重視し、宇佐市の若手職員との勉強会、空間デザインに関する市民まちづくりワークショップ、地域の住民団体との駅にまつわる歴史勉強会などを行ってきた。
審査委員は「周囲の長閑な雰囲気をそのまま駅前に持ち込んだようなシンプルな佇まいになった。国鉄時代に整備された画一的なRC(鉄筋コンクリート)造の駅舎も新しいシェルターで美装化され、記憶を継承している」と評価した上で、「日豊本線の駅は旧市街地との位置が離れている場合が多いが、新しい賑わいづくりへの挑戦は高く評価されるべき」とした。
□前向きな役割際立つ
1979年に開園した津久井ケ丘幼稚園は、市立串川中学校の北に立地。卒園児は約8千人で、その家族を含めると関係者は2万人以上と見込んでおり、幼稚園に通うこと自体が地域のコミュニティー形成と一体化しているような側面を持つ。地域に親しまれてきたが、増改築や老朽化で不具合が生じていたこともあり、将来を見据えて建て替えることになった。
少子化を踏まえて面積を減らし、アクセス性・視認性・開放性を高めて人が集まりやすい状況を創出。保育園機能も含めた融通性を持たせて社会の変化に柔軟に対応できるようにし、幼稚園でありながら、地域コミュニティーを維持して育てる拠点をつくろうとしている。
2022年8月の完成後はイベント時にキッチンカーが来てテーブルを広げるなどさまざまな使い方が試みられている「前庭」と呼ばれているスペースを配置。 新園舎はホール棟と教室棟に分割してあり、間を通り抜けて裏側に出られる。裏側と呼ばれるが南側で日当たりがよく、家族や関係者を招いて運動会ができる広さがあり、「園庭」と呼ばれている。
ホール棟は単独で地域集会に貸し出すなどこれまでにない活動を想定する一方、教室棟には従来の活動が継承できるように旧園舎とほぼ同じ面積の保育室4室を造った。その脇に幅の広い廊下のような「拡張スペース」を設けた。保育室の引き戸を全開すれば拡張スペースと一体化して面積が増やせる造りで、認定こども園の基準面積を念頭に置いた可変性を持たせている。
審査委員から「反り返った大きな屋根が印象的で実にユニーク。出生率が低下する昨今、コミュニティー建設における保育施設のポジティブな役割を際立たせ、子供に優しい街づくりの意義を明確に打ち出している」と評価された。
□店舗併用の集合住宅
03年完成のイル・シエロは駅近くの店舗併用賃貸集合住宅。地下1階から地上3階までの低層部を商業施設、4~9階の高層部を住居空間とし、「賑わいのある街、いごこちの良い街」として理想的な都市居住のあり方を提案する。「住居こそが日常の疲れを癒す小さなリゾート」をコンセプトとし、清潔で快適な水回りと、光と風が十二分に入る南側の開口部、そこからの抜群の眺望を特長とする。
デザインを手掛けた山岡嘉彌デザイン事務所によると「個性的に生活することが出来るこの新しいタイプの居住空間の提案は、新しい時代に一石を投じ、満室稼働が続いている」という。審査委員は「20年経った今でも商業空間が入ることで街に賑わいを創出し、上階の居住空間はメゾネットタイプとしたことで、多様な暮らし方ができる優れた計画」とコメントしている。