【相模原】「午前零時の評議室」でミステリー新人賞の伊藤信吾弁護士、都内ホテルの贈呈式に出席


3月末まで日本弁護士連合会(日弁連)の副会長で、県弁護士会相模原支部の伊藤信吾弁護士(61)が「第28回日本ミステリー文学大賞新人賞」に選ばれ、主催の光文社文化財団は3月18日、東京都内のホテルで贈呈式を開催した。「光文三賞」と呼ばれるもので、同文学大賞には作家の東野圭吾氏(67)、鶴屋南北戯曲賞は劇作家の古川健氏(46)が選ばれた。【2025年4月1日号掲載】

受賞の喜びを語る伊藤弁護士

受賞の喜びを語る伊藤弁護士



新人賞を受賞した伊藤氏は、3年連続で同賞の最終候補に選出されており、3度目の挑戦で受賞をつかんだ。ペンネームは衣刀(いとう)信吾で作品名は『午前零時の評議室』。3月12日に発売されている。贈呈式では正賞の像と副賞500万円の目録が贈られた。

同文化財団理事長で光文社の巴一寿社長はあいさつで「わたしたちをとりまく社会は変化の速度を増し、世界的な紛争や自然災害の頻発といった負の大きな変化がある一方で、生成AIなどデジタル技術の急速な進化により、暮らしも否応なく変わり始めている」として、「こんな先行きが不透明で複雑な時代だからこそ、わたしたちは時代と向き合うための文化の基軸を大切に育んでいく必要があると考える」と光文三賞の意義を強調した。

今回の新人賞の応募総数は205編。4編が候補作となり、過去に最終選考に残った候補者が3人顔をそろえた。4人の選考委員を代表して作家の薬丸岳氏は「衣刀さんは3年連続で最終選考に残り、3作とも読んでいる。どれも法曹界を舞台にした作品。1作目は小説の描写や技術が拙く、無理があるトリックがあった。2作目は連作短編風の凝ったつくりで、前作より小説描写など進歩しており、あと一歩で受賞に届かなかった」と振り返った。「今回は密室トリックあり、タイムリミットサスペンスあり、読者を驚かせてやろうという意気込み、強いメッセージ性を感じて1番に推し、選考委員全員の総意で決まった。この3年で毎年、違うタイプのミステリーに挑戦され、選評に応える小説に進化していった。これからも期待している」とエールを送った。

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伊藤氏はあいさつで「コロナ禍で時間ができ、小説を書いてみようと思ったのが2021年。小説学校にも通ったこともなく、選考委員からの選評でたくさんの指摘を受け、無料で3年間育てていただいた気持ち」と感謝を述べた。受賞連絡の瞬間は「日弁連の宴会でお酒が入っており、翌朝、夢だったんじゃないかと本当に心配した」と会場の笑いを誘った。

物語は大学生の美帆のもとに届いた裁判員選任の案内状から始まる。事前オリエンテーションとして担当判事によって呼び出され、事件の被告人の名前に聞き覚えがあった美帆だったが、それはアルバイト先の羽水(うすい)弁護士事務所が担当する事件だったからだった。雑居ビルの一室に集められた裁判員たち。そこから通常の裁判員裁判とは違う異例の事態が幕を開ける。

伊藤氏は40代から朝型の生活で午前4時半ごろに、弁護士事務所に出勤。午前9時までを執筆時間にあてた。「電話がかかってこないので集中できた」と振り返る。

伊藤弁護士を囲み祝福する地元関係者ら

伊藤弁護士を囲み祝福する地元関係者ら



24年4月に日弁連の副会長に就任することが決まっていたので、受賞作は23年の年末年始に書き上げたという。伊藤氏は「今回は5月の応募まで時間があり、十分に見直しや推考ができた。法廷のシーンなど弁護士の経験がなければ書けなかったと思う。神奈川県青葉市という架空の都市が舞台だが、実は相模原市がモデルになっている。市は3区で構成され、リニア中央新幹線が乗り入れるという話も出てくる。作品が相模原だけ局所的に売れるのではないか」と笑顔をみせた。

贈呈式には伊藤氏をお祝いしようと、日弁連や相模原市の関係者が出席し記念撮影などが行われた。4月にも同市内で受賞のお祝いの会が開かれる。

 
 

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