昨今、住まいに関する最重要テーマとして耐震をあげる人は多いだろう。しかし、大災害に見舞われなくても、高温多湿気候の中、木造主体の日本の家の平均寿命はせいぜい30年という統計がある。
相模原市のベッドタウン化が本格化し、毎年2万人規模の人口急増が始まったのが1960年代半ば。地域にもよるが、統計を裏付けるように、90年代末頃からあちこちでリフォームが盛んに行われるようになった。
「町の水道屋さん」として40年の歴史を持つ小池設備(相模原市南区西大沼1-18-2、小池重憲社長)がリフォーム事業をスタートさせたのは、3年ほど前のこと。ただそれは、厳しい時代を生き抜くための本業のサポートではなく、むしろ逆だ。
「水まわりのトラブル修理を手掛ける中で、機器・設備の入替えやそれに付随したリフォーム工事の相談を受ける機会が増えてきたので、当社に信頼を寄せてくれる顧客サービスの一環として始めた」と小池社長は話す。いわば本業で受け切れない領域をカバーするための派生事業なのである。
同社は1972年、同社長の父・靖憲氏が創業。許可事業者として水道工事を請負える地域は、町田市、横浜市、川崎市など市外にも広く及ぶが、実際は圧倒的に市内が多い。新規設備工事だけでなく、以後のメンテナンス等を考えると必然的にそうなる。年中無休で、場合によっては24時間対応もあり得るからだ。
水資源に恵まれ着実に下水道の普及が進む日本では、水は必要な時に必要なだけ使えて、使用後は即座に排せて当然という風潮がある。トラブルなど起ころうものなら、大変な剣幕で迅速な対応を求める客も少なくない。そんな中で信用を獲得するのは、傍目で観るより大変なことだ。
「新規設備工事での直接の取引先は役所やデベロッパーだが、仕事の意義を考えると、真の顧客は住人。常にそのことを念頭に置かなければならない」
小学生で夏休みに父親の仕事先に同行し、大学時代には既に家業の名刺を持っていたという小池社長。まさに“オヤジの背中”から、顧客サービスや地域貢献の本質を学びとってきた。
当初、水まわりだけだったリフォーム事業は、現在、長年の信頼関係にある各種事業者の協力を得て、住宅の屋内外全域に及ぶ。さらに東日本大震災後、自宅の給水汚染がきっかけで取り寄せた宅配の浄水が客先でも注目を集め、代理店事業として加えた。
これだけリテール事業を広く展開するようになっても、同社に営業専任スタッフはいない。
「基本的に口コミとホームページの反響で十分。すべては顧客サービス、地域貢献のためであって、仕事を獲得するための仕事は考えにくい。喜ばれるなら、便利屋的な事業もいい」と小池社長。
本業と並ぶ柱にはなり得ないというが、派生事業はまだまだ増えそうだ。(矢吹 彰・7月10日号3面掲載)