特許や実用新案登録を出願するような先進技術や過去に例がない斬新なサービスを考案しても、そこにニーズがなければビジネスとして成立しない。一方で、起業する人にはおおかた専門分野があり、うまくいくなら何でもいいと考える人は少ないはずだ。
システム・ソフトウェアやサーバ・ネットワークなど、企業内ITインフラの開発、構築、運用・保守を手掛ける(株)樋口総合研究所(相模原市南区相模大野8-4-2ラ・メールビル2F、樋口陽平社長)は、今まさに時代の波に乗り急成長の途にある。
2010年設立時に3名だった正社員は現在35名。首都圏を中心に50社ほどの顧客を抱え、3期目の売り上げは2億5000万円(5月)。この8月には東京・西新宿に新宿支社を開設した。
しかし、同社の創業にあたって樋口社長は、特段専門分野を極めたり斬新なサービスを考案したわけではない。そこにあったのは、強い起業志向と世のニーズを的確につかみ応える才である。
2001年、製造業が厳しい状況下で大学卒業を迎えた樋口社長は、ネット証券会社に就職。FX(外国為替証拠金取引)の運用に携わった。
「就職後しばらくして、会社が嫌だとか脱サラ指向とかではなく、やりたいことも定まらぬまま、節税等のために起業したいと思い始めた」と同社長は振り返る。
03年、サラリーマンの傍ら、とりあえず樋口商事を屋号に個人事業主登録を行い通信機器販売等の副業を始めたが、コンプライアンスの観点から間もなく退職。その後、様々な事業を手掛ける中で07年、知人を介して大手金属加工機械メーカーの社内サーバ、ネットワークの運用・保守業務を請負ったことが大きな転機となった。
「大手の仕事を得たと同時に、この種の仕事に携わる人手が世に不足していることが分かったことが大きかった」と樋口社長。
翌年、リーマンショックで野心は頓挫しかけたが、景気回復を見計らってフリーのシステムエンジニア(SE)に声を掛け、自らの営業で獲得した企業内ITインフラ関連の業務を提供。法人設立に至った。
現在、ファームウェアの設計・開発やホームページ制作等も手掛ける同社だが、システム・ソフトウェア、ITインフラ、ヘルプデスク・オペレータ関連で売り上げの9割を占める。仕事柄、スタッフは客先に直接出退社するため、本社は総務、営業管理機能のみ。社内連絡はほとんど電話と電子メールで事足りる。
驚くのはその営業形態。
「DM等を介して登録されている約1000社からタイムリーに情報が入るので、完全に受け身の営業。先方の都合で突然打ち切られるリスクもあるが、全てに対応し切れていないのが現状」
うれしい悲鳴の背景には、即戦力のSEが不足しているという課題があり、今後は、社内で育てていくことも成長のカギとなる。(矢吹彰、2013年8月20日号掲載)