菊屋浦上商事、商売は地域とともに/忘れない恩返しの心


目標を持ち続ける浦上社長

目標を持ち続ける浦上社長


 文具販売を主力とする創業60年以上の老舗企業が、ここ相模原にある。JR相模原駅からも近い、西門商店街に店舗を構える「菊屋浦上商事」だ。店内には、左利きの人でも不自由なく文具が使えるように、左手用品の専用コーナーがある。日本唯一の専門店として近年注目された。そんな同社を率いるのは浦上裕史社長。商連かながわ副会長でもある。そのほか、相模原市商店連合会理事長…。浦上社長が役員を務める地域団体は実に10以上。休日さえない多忙な日々を過ごす。「地域に育ててもらっているので、地域に返すのは当たり前」と浦上社長。企業と地域との関わりが希薄になりつつある現在、商売の原点〟を守り続けている。(千葉 龍太)

■大田区で創業

 浦上社長は現在64歳。東京都大田区・蒲田の出身。日本最古のミッションスクールとして知られる、白金台にある明治学院高校、明治学院大学の経済学部を卒業した。
 菊屋浦上商事は、文具店として戦後間もない1947年に、同じく蒲田で産声を上げた。
 創業者は、父・喜久二氏(現会長)。学生時代の浦上社長は、勉学に明け暮れながら社員として家業を手伝った。
 「学校が終わると、すぐに店に直行しました。同世代が熱心だった、学生運動なんてやっている暇なんかありませんでしたね」と振り返る。
 大学3年生の時には、日本電子工学院(現・日本工学院)にも通った。今で言う「ダブルスクール」だ。
 複写機などの電子機器が普及していくことで、企業に紙やペンを売るだけの文具販売の方法はいずれ変わる。
 そう予見しながら、同学院でコンピューターを学んだ。
 大学卒業後は1年間、都内の同業者に就職。サラリーマン生活を満喫した後に、本格的に実家を手伝うことになったという。

■相模原に移転

 昭和40年代。日本の高度成長期は続いていた。
 京浜工業地域でも大手企業の工場が数多く並び立ち、日本のモノづくり産業も発展を遂げていた。
 こうしたなか、京浜地域だけでは手狭になった大手企業は、厚木や相模原などの内陸部にも相次いで進出するようになった。菊屋浦上商事も、大口顧客だった企業の相模原進出に合わせて、移転することになる。72年のことだった。
 こうして現在の西門商店街に店舗を構えた。文具販売といっても、同社の場合、顧客の大半は企業が占める。浦上社長いわく「お店はショールームの部分が大きい。うちはオフィスに関する何でも屋です」。
 こうしたスタンスで、浦上社長は、相模原の企業を回り、徐々に顧客を増やした。今ではその数200社以上になる。

■変化する環境

 とはいえ、地域を支える商店街や文具店も時代の変化に巻き込まれる。
 平成に入ると、IT(情報)化や物流革命が押し寄せる。
 文具やオフィス用品は、カタログ販売やネット販売が普及。「店に行かなくても商品が届く」ことが当たり前になっていく。
 一方、流通でも、これまで商店街の代わりに、大型スーパーが続々と進出。さらにはコンビニエンス・ストアが至る場所に出店するようになった。浦上社長は説明する。
 「まずスーパーが進出したため、ある種の商業流通革命が起きた。商店街がスーパーに取られるようになった。それがコンビニの出現でまた変わった。文房具や金物、食料品…。コンビニには専門店でも売れるものしか置いていない。コンビニとは、〝ABC分析〟の塊なんですよ」
 こうしたなか、浦上社長が強調するのは、店と地域とのつながり。「文具屋は地域あっての商売です。企業もそう。従業員は地域から通っています。だからこそ、地域のために活動する必要があるんです」と説く。

■商売の〝原点〟

 どの地域でも商店街が閑散とするなかで、菊屋浦上商事が存在感を発揮しているのは、紛れもなく地域貢献を人一倍行っている点にもある。
 「商連かながわ」の副会長を始め、「県中小企業団体中央会」の理事、「相模原事務用品協同組合」の監事…。浦上社長はいくつもの役職をこなす。それだけ地域からの信頼が厚いことが、商売も支えているのだ。
 店舗には、今でも東京や横浜の企業から「文具を安く仕入れたい」と電話が掛かってくることもある。そんな時、浦上社長は返す。
 「地域の文具店と連携していないんですか。地域から仕入れて下さい。うちは安ければよいという業者とは取引しません」と。
 4年前。最愛の妻・豊子さんを病気で亡くした。生前「仕事、仕事でこれまで夫婦2人でいた時間は少なかった。老後は夫婦でゆっくりと」も考えていた矢先でもあった。だからこそ、今、一生懸命にやっているのかも知れない。
 取材中、浦上社長の手帳を見せてもらった。10以上の地域団体の役職にあるだけに、スケジュールは、隙間なく埋まっていた。
 「文具屋は地域に育ててもらっているので当たり前のこと」と浦上社長はキッパリ。
 地域に支えられ、地域と共存する。そして地域にも返す―。まさしく、商売の原点ともいえる。浦上社長は、地域とともにある。(2013年9月10日号掲載)

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