内陸工業都市である相模原市には、田名や橋本台地区をはじめ、大小の工業集積地が各地に点在する。その一方で、“らしからぬ場所”に単独でひっそりと事業所を構える企業が、最先端の技術力をもって付加価値の高いものづくりに取り組んでいたりする。
半導体製造装置用のケーブルや電源ユニットの製造等を手掛ける平栗(相模原市緑区久保沢2-2-16、平栗文夫社長)もそんな企業のひとつ。同社の本社工場は、旧津久井郡城山町役場からほど近い緑に包まれた住宅地の一角にある。
同社は1977年に、平栗社長の義父が創業。当初は主に時計の部品を製作していたが、80年代に入ると、事業が海外に流れ出した。このため、82年に合流した平栗社長がまず考えなければならなかったのは、既存事業の発展ではなく、新事業への転換だった。
こうした中で同社長が注目したのが、ユーティリティが急速に向上し、産業用だけでなく民生用としての市場拡大が見込まれていたパソコン関連の事業。それまで工作機械のコントローラー等を手掛けてきた自身のキャリアを生かし、キーボードの組み立て等に事業転換した。
ところが、一時は量産で波に乗ったこの事業も、90年代に入ると、円高等の影響で海外移転が進み始める。再度事業転換を迫られた同社が新たに求めた居場所、それが多芯多極ケーブル、電源ユニット、コントロールユニット、プリント基板等、今では売上げの9割を占めるまでになった半導体製造装置関連の事業である。
2003年には東北工場(岩手・奥州市)を開設。製作、組み立てから配線、検査、調整までワンストップで請け負い、小ロットから量産まで対応できる態勢も整えた。
半導体業界特有の波を何度も乗り越え、ここ1年半ほど続いた厳しい状況も脱しつつあるが、「デバイスメーカー間で事業の統合、集約が進めば、製造装置の数も制限される。自ずと関連事業は淘汰される」と、平栗社長は先行きを楽観していない。
今後の生き残りをかけて、既に同社では、受発注や生産情報を一括管理できるITシステムを導入し業務効率の向上を図ることで、競合他社に対しサービス面で差をつけるなどの施策を講じてきた。しかし、業界の市場規模が縮小されるとなれば、それでは不十分。またしても他の業界に目を向ける必要が出てきた。
そこで同社が近年、積極的に取り組んでいるのが、「ビジネスフェア・フロム・TAMA」や「東京国際航空宇宙産業展」など、各種展示会への出展。多芯多極ケーブルなど既存事業で培った高度な製造技術に、医療や通信機器といった他分野で応用できる付加価値をつけるのが狙いだ。
「付加価値の分だけ責任感も増す。それが社内の意識向上につながっている」
平栗社長も確かな手応えを感じとっているようだ。(2013年11月10日号掲載)