岡直三郎商店、創業200年余年 国産原料と伝統製法にこだわる醤油づくり/天然醸造しょうゆの製造・販売


醤油文化の普及に力を入れる岡社長

醤油文化の普及に力を入れる岡社長


 相模原市民も頻繁に利用する小田急町田駅の乗降客数は、今や1日およそ29万人。同線では新宿に次ぐ規模である。

 通勤通学時などは、狭いホームにあふれる人込みで気も張る。そんな時、何か食欲をそそる香りでも漂ってきたなら、多少なりとも気が和むかもしれない。

 相模原も町田も、1960年代以降にベッドタウンとして発展してきた町だからあまり知られていないが、半世紀余り前まで同駅は、ホームに立ち込める醤油の香りが乗降客の間で評判だったという。正確には1919年から57年まで、現在の同駅東側には醤油の醸造工場があった。

 経営元は、「日本一しょうゆ」のブランド名で現在も木桶仕込み、天然醸造にこだわった醤油づくりを続ける岡直三郎商店(町田市旭町1-23-21)である。

 同社は1787年、近江商人の岡忠兵衛が上州大間々(群馬県みどり市)で創業。当初町田には工場のみの進出だったが、1950年の株式法人化に伴い本社機能を移した。

 都市化の波により、57年に本社工場を市内森野に移転。さらに70年には工場を大間々に一体化したが、営業拠点となる本社は現在も市内に置く。

 同社の醤油づくりは一貫して、大豆をはじめとした国産原料と手間ひまかけた伝統製法にこだわる。生、濃口、薄口、再仕込、溜など商品ラインナップも多様。知名度や小売販売店数では大手メーカーに及ばないが、品質への深いこだわりから、インターネット通販等を通じて通好みの逸品として静かな人気を広げている。

 むしろその香味を知らないのは地元市民だけなのではと思いきや、「現在の在校生を含め、町田の市立小学校に通った50歳ぐらいまでの方なら、うちの醤油を味わっているはず」と、2000年に就任した八代目岡資治社長は話す。

 なるほど、同社の醤油はもう40年以上前から市立小の給食に使われているのだ。もちろん、同社の長年の取引先である飲食店も市内方々にあるから、無意識にそこで店共々ひいきにしている人も大勢いるに違いない。

 また同社では近年、直営の醤油創作料理店「天忠」(同市中町)や本物の仕込用木桶を加工して直販店舗とした「きおけショップ桶忠」(本社入口)を続々とオープン。さらには市内の自家製アイスクリーム店やスポーツ団体と地元密着型のコラボレーション商品を開発・販売するなど、醤油文化の普及とブランディングの強化に力を入れている。

 一方同社では、築100年を超える店舗兼事務所など文化財としての価値も高い大間々工場を観光施設として改装・整備し、見学者を受け入れている。

 トロッコ列車や美しい車窓風景で知られるローカル鉄道「わたらせ渓谷線」の主要駅からほど近い立地で、「町田・相模原市民の皆さんもぜひ足を運んでほしい」と、岡社長はPRしている。(矢吹 彰/2014年2月10日号掲載)

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