第五電子工業、鉄鋼マンから経営者に/一生働ける場を求めて


「営業は戦略が大事」と語る水田社長

「営業は戦略が大事」と語る水田社長


  自動車や電気製品…。幅広いものを支える半導体。その製造装置の部品を手掛けるのが、相模原市緑区橋本台の第五電子工業だ。水田光臣社長(47)は3代目。前職は、誰もが知っている大手鉄鋼会社の技術営業だった。阪神淡路大震災の教訓から、液状化を防ぐ新製品の営業に奔走する。ところが、大手企業の組織の脆さも目の当たりにした。「一生働ける、そして活躍できる場所を探したい」と考えた。そして、たどり着いたのが義理の父が経営する第五電子だった。やがて経営者としての道が始まる―。(船木 正尋/2014年4月1日号掲載)

 ■鉄鋼会社に

 水田社長は、相模原・淵野辺出身。小・中学校は野球に夢中だった。
 高校卒業後は、まちづくりがしたいと、東京都立大学(現・首都大学東京)で、土木工学を学んだ。
 その後、大手鉄鋼メーカーに就職した。技術営業として、護岸工事などに使用する土留めの開発や営業を手掛けた。液状化を防ぐ機能を搭載したハイドレーンパイルというものだ。
 水田社長は「実験に立ち会ったり、営業先で技術的な説明をしに全国各地を回ったりと、仕事は非常に楽しかったです」と話す。
 1995年に阪神・淡路大震災が発生し、海や川の近隣では液状化が起こった。それで、水田社長が手掛けていた製品の引き合いが殺到したという。
 「いろんなことをやりました。プレスリリースを書いたり、イメージ映像の編集に立ち会ったりと、自分が何屋なのか分からないくらいでしたね」と苦笑いを浮かべる水田社長。
 そして28歳で、第五電子の創業者である五十嵐文男氏の娘・玲子さんと結婚する。結婚した翌年の1995年に入社の打診があった。
 「かなり迷いました。仕事もこれからというところでしたから。しかし、自分の考えが実現できる場ではないかと思い、入社を決断しまたね。それに加えて、一生働けるのも魅力でした」

 ■第五に入社

 98年、6年半の短くも濃厚なサラリーマン生活にさよならを告げ、第五電子工業に入社。水田社長30歳の時だった。
 営業部長として入社した水田社長の使命は、新規受注の営業だった。
 大手半導体製造装置メーカーからの受注割合が95パーセントという大きな数字。そこからの仕事が減れば会社は傾きかねない。水田社長はがむしゃらに営業を仕掛けた。
 水田社長は「当時は、ほんとに未熟でしたね。『熱処理も機械加工も何でもできます』と10分くらいまくし立ててましたからね」と振り返る。
 しかし、半年後、一つ契約が取れた。「本当にうれしかったですね。何度も取引先に足を運びましたよ」と笑顔で語る水田社長。
 その後、年を経るごとに営業にも慣れ、新規を獲得していった。こうした業績が認められ02年には常務に昇進。
 それと同時に2代目に義理の姉である五十嵐ゆかり氏が社長に就任した。しかし、その後、ゆかり氏が死去。
 社長不在のまま、創業者である五十嵐会長(当時)と常務だった水田社長の二人三脚で会社を運営することになったのだ。
 水田社長は、営業のほかに、新たに社内改革に着手した。効率性やコストダウンを行い、業務改善を図った。
 その結果、06年は、過去最高の8億円の売り上げをあげた。
 「あのときは非常にうれしかったですね。社員一丸となって、あげた売り上げですね」

 ■苦境の08年

 しかし、08年に起きたリーマンショックで事態は急変する。
 売り上げが急激に減っていった。09年5月には売り上げが1000万円まで減った。前年同月比の5分の1だ。
 しかし、それを救ってくれたのは、新規獲得で、得た受注のおかげだった。大手依存だった場合は、なんと同月の売り上げは100万円だったという。
 水田社長は言う。「新規をコツコツと開拓していったおかげ。それがなかったら会社が倒産していたかもしれない」と。
 なんとか危機を乗り越え、秋には月の売り上げが4000万円まで回復し、最悪の事態は逃れた。

■社長に就任

 リーマンショックのピンチを脱し、43歳で社長に就任した。精力的に全国の工場などへ営業に回る。
 営業は戦略と語る水田社長は「まずは相手が何を求めるかを探ることが大事ですね」と。
 現在は、積極的にテクニカルショウ・ヨコハマやセミコンジャパンなどの展示会にも出展。そこでまずは名刺を配って種まきをする。そして活動開始だ。南は九州から北は岩手県まで、営業活動の旅に出る。
 水田社長は「チャンスを捉えるには露出をして、フォローする。それが一番大事なこと。つまり、必ず出向いて商談するということです」と強調する。
 水田社長の下で働く若い営業マンは驚く。こうした営業で、1回行くと約4割の確率で商談をまとめてくるという。ものづくりの魅力を伝える伝道師として全国各地を飛び回る。

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