東日本大震災から、はや3年が過ぎた。
被災地から数百キロ離れた地にいては、復興の槌音もメディアを通した断片的な情報として伝わるだけで、実態はよくわからない。ただ、国内外から相当な金銭的・人的支援が提供されてきたにもかかわらず、進捗の度合いは今一つとの思いを抱く人は少なくないのではないか。
樹木伐採やエクステリア施工等を手掛ける造園土木業、ワコーグリーン(相模原市南区磯部44-1)の柳谷和幸社長もその一人。それには確たる理由がある。
同社は、大震災から2カ月も経ない4月末に早くも被災地に赴き、復興支援の足掛かりとなる取り組みで一定の成果をあげた。津波による冠水で塩害を被った仙台市若林区の水田農家での土壌改良実験で、同社オリジナルの特殊な堆肥が抜群の効果を発揮したのだ。
ところが以降、その堆肥が同区はもとより、宮城県内の市区町村、県外の被災地に広く普及することはなかった。
「実験は知人からの依頼がきっかけで、基本的にはボランティア。結果からは正直ビジネスになると思えたが、以後何も起こらなかった」と柳谷社長は振り返る。
土壌改良の最善策は土壌そのものの入れ替えとする行政機関の保守的な定義が農業団体等を通じて深く浸透しており、革新的な“特効薬”といえども、容易には受け入れられないのが実情のようだ。とはいえ、塩害農地の復旧が今なお被災地の大きな課題とされているのは事実なのである。
ちなみに、この特殊な堆肥は、塩害対応を目的に開発されたものではない。
1990年の創業以来、同社の主業は東京電力の送電設備敷地等の樹木の伐採で、受注は安定しているものの、そこで搬出されるごみ処理料が年間1000万円以上に及び、利益を圧迫していた。そんな折、伐採した樹木をチップ状に破砕して天然成分のミネラル液を混ぜ発酵させると、農産物の生育促進、連作障害の発生抑制に高い効果のある有機堆肥が作れるとの情報を得、実験を重ねて2010年に開発。ごみと経費の削減、新事業創出を同時に実現する一大プロジェクトであった。
さらに、偶然にも翌年に発生した大震災により、塩害にも有効であることが実証されたわけである。
以前はさしたるPRもせず知名度は低かったが、2年前に相模原市トライアル発注認定製品とされ、電話やインターネットでの通信販売を開始したことで風向きが変わった。地元の農業生産法人をはじめ個別の農家や農園主からの反響が高まり、引き合いは全国レベルになりつつある。
「やはり最も気になるのは被災地。この堆肥で植え付けたトマトのプランターを持って福島の農家を訪ね、被災地でも一級品の作物ができることを実証したい」
ビジネスでは割り切れない使命感のようなものが、柳谷社長を突き動かしている。(矢吹 彰/2014年4月10日号掲載)