日本の産業政策が第二次、三次産業の発展ばかりに注力し、一次産業をおざなりにするようになって、既に半世紀以上になる。この産業シフトは経済発展を目指す上での世界的法則とされているが、わが国ではそのスピードがあまりに高いだけでなく、シフト後に以前の産業を過度に弱体化させてしまっている。
そんな中で、合資会社次世代技術(相模原市緑区若葉台3-16-5、石井忠司代表)が開発・販売する農業用環境モニタリングシステムは、第二次、三次産業の技術で一次産業を復興させる可能性を秘めた製品である。
「アグリサーバ」と命名されたこの製品は、気温や湿度、日射量、土壌水分等のデータを自動的に計測するセンサーやカメラと通信機器をユニットシステム化。農地やビニールハウス、酪農舎に設置することで、計測した各種データを現場から離れた自宅や事業所、研究所等で監視、閲覧、蓄積することができるというもの。カメラによるオンタイム映像で監視することもできる。
「農家が代々培ってきた経験、技術が重要なことはいうまでもないが、近年特有の異常気象や汚染、病気などのリスクに対処できるシステム」と石井代表は話す。
旧世代はアレルギーを持ちやすいが、情報通信端末を日常的に使いこなす新世代にはアピールしやすいスペックでもある。
2012年度には、この製品を用いた広域農業情報クラウドが「かながわビジネスオーディション」で県知事賞を受賞。さらに13年度には、相模原市のトライアル発注製品に認定された。
官のお墨付きは十分なのだが、普及のネックとなるのは基本仕様でも50万円という価格。保守的で弱体化しつつある業界では、正直受け入れ難い。
実際、これまでの導入例は大半が補助金を受けての研究用途で、実務的用途は微々たるもの。課題は石井代表も十分認識している。
「近隣のホームセンター等で、せいぜい3~5万円くらいで販売されるようにならなければ本格普及は難しい」
とはいえ、“次世代技術”と称されるものの多くが青写真のみで消滅する中、このような製品が市販されていること自体は素直に評価できるのではないか。
そもそも「アグリサーバ」が生まれた背景には、石井代表のユニークな経歴も密接に関係している。
東京大学で農業機械学、就業後に同大学院で航空宇宙工学を修めた。起業前は大手建機メーカーで製品設計、輸送機器系研究所で気化器試験、宇宙・航空システム関連のソフトウエア開発大手ではロケットのプログラム開発等に携わった。いわば、第一次・二次・三次産業のすべてと、ハード・ソフト両面に関わるキャリアを有しているのだ。
「チャンスがあれば、音楽と工学を融合させた事業に着手したい」
今度はジャズを愛好する自らの趣味と先進技術とのハイブリッドを狙っている。(矢吹 彰/2014年4月10日号掲載)