「つくる」「使う」「ためる」「万一に備える」――。金のことではない。電力のことだ。
3・11まで、一般市民の電力への関心は「使う」ことぐらいだったが、以降は「万一に備える」を筆頭に「ためる」「つくる」への関心が急速に高まった。
「一般住宅への太陽光発電や蓄電池、HEMS(住宅用エネルギー管理システム)の導入は以前から注目されてはいたが、住宅業界における次世代向けの営業戦略レベルにとどまっていた。それがあの大震災で一気に市場に広まることとなった」
こう話すのは、家庭・産業用大容量リチウムイオンポリマー蓄電池やHEMSの開発・製造・販売を手掛けるスマートパワーシステム(相模原市中央区東淵野辺5-12-6)の石川和希社長だ。
同社長は20年ほど大手住宅関連メーカーに勤め、商品開発から営業まで一通りの業務を経験。「将来チャンスがあれば新エネルギーの分野で独立も」ぐらいの控えめな野心は抱いていたが、大震災と直後の計画停電等の厳しい社会状況がそれを強力に後押しした。
創業は震災から間もない11年6月1日。とりあえず東淵野辺の一角にあった借家を事業本部とし、とりあえず8月に自社製品第一号として容量2・7kW/hのリチウムイオンポリマー蓄電池を完成させ、停電対策用にと事業所に売り歩いた。
成果は上々で、翌12年1月に現在の本社工場をオープン後は、より大容量の機種や、出力電圧をカスタマイズできる機種を相次いで追加。さらに10月には、経済産業省によるエネルギー管理システム導入費助成事業の助成金補助対象機種に指定されるタイミングを見計らって、住宅用HEMS制御用分電盤システムをリリースした。
同システムは電力会社から供給を受ける電力量、ソーラーパネルよる太陽光発電の発電量や売電量、ガス・水道の使用量、蓄電池の使用量を分電盤で制御し液晶モニターに分かりやすく表示するもので、一般家庭で多様なエネルギー管理が容易に行える。
ちなみに同社のリチウムイオンポリマー蓄電池、HEMS分電盤はそれぞれ12年度、13年度の相模原市トライアル発注認定製品となっている。
このHEMSを機とした住宅分野への事業拡大こそは、石川社長の真骨頂。実は、大手メーカーを相手に着々とオセロゲームのようなシェア拡大を狙い、実績を上げているのだ。それも、安価戦略によってではない。
「シンプルな構成の製品で価格を競っているのは大手。当社では独自の付加価値を満載したトータルなシステムとして提供している」と話す石川社長は、新エネルギーがまだ発展途上で、確たる法制度も未整備の分野であるだけに、中・長期的な事業構想にも自信をのぞかせる。
「将来を見据えたアイデアはまだ沢山ある。社会環境や法制度の動向に対応しながら、タイミングよく事業化していきたい」(矢吹 彰/2014年5月20日号掲載)