相模湖の湖畔が広がる相模原市与瀬に本社を構えるアトリエヨシノ。同社は、バレエ衣裳のレンタルを行っており、シェアは5割を誇る。昨年度の売り上げは約10億円。
創業者は吉野勝恵社長。
千葉県旭市の出身で、元はアパレル企業のデザイナーをしていた。
吉野社長は「当時、ドレスのデザインをしていました。この時の経験が今のバレエ衣裳に役立っていますね」と語る。
出産を機に同社を退社した吉野社長。都内から旧相模湖町に移り住んだのは25年前だ。しばらくは子育てに専念。そんな時に転機は訪れる。
友人からバレエの衣裳に困っている先生が沢山いるので手伝ってもらえないかと一報が入る。
バレエ衣裳は、買うとなると数万円~数十万円もする高価なもの。発表会の悩みの種だった。
多くの教室では、市販の服に親たちが、飾りを施していたという。こうしたなかで、吉野社長は、アパレル企業で培った技術を存分にふるった。
クラシックチュチュこそは伝統に倣ってはいたが、それ以外はモダンなデザインを積極的に取り入れた。
その斬新なデザインの衣裳は口コミで広がり、いつしか、事業として成り立つまでになった。
「今までバレエ衣裳には携わったことはありませんでした。逆にそれが良かったんだと思います。チュチュにドットやストライプなどを取り入れました。伝統的なデザインを生かした上で、斬新なデザインにも挑戦しました」と吉野社長。
そして98年には、会社を設立した。多くの人々に衣裳を使ってもらいたいと、すべてレンタルにした。04年に衣裳在庫が1万着を突破した。当時は、1カ月で1000着も製作していた。
吉野社長は「当時は、がむしゃらに衣裳をつくっていましたね。デザインの試行錯誤を重ねたりするのが、非常に楽しかったですね」と振り返る。
多くの舞台に足を運び、衣裳の研究は欠かさない。こうした日々の研さんが今のアトリエヨシノの人気の根源であることは間違いない。
同社の衣裳の特徴は、サイズや色、バリエーションの抱負さだ。
一つのデザインで、大人から子どもまで10サイズにまでに及ぶ。さらにカラーバリエーションを入れると限りなく広がってくる。
「たくさんの選択肢の中から、多くの人々に衣裳を着てもいらいたいという思いが、多くの種類を製作することになっていきました」
現在は、本社や緑区寸沢嵐にある寸沢嵐倉庫と合わせて約7万着が保管されている。毎月1~2万着は全国のバレエ教室へと貸し出されていく。
バレエに対する想いは、誰にも負けない吉野社長には夢がある。バレエを通して、相模湖町(相模原市緑区)を芸術の発信地にすることだ。07年と09年には「さがみ湖野外フェスティバル」のプロデューサーを務めた。
「バレエの良さを一般の人々にも知ってほしいと企画した」と語る吉野社長。衣裳だけでなく相模原発のバレエ普及活動も行っている吉野社長。美しきものを追求する情熱はとどまることを知らない。 (船木 正尋/2014年6月10日号掲載)