起業には相応の計画、準備が必要だ。特定の商品や技術を売るなら、綿密なマーケティングに基づき確たる売上目標を掲げ、達成に向けた営業計画を練るのが定石である。
他方、ビジネスの性質上、売上目標など高らかに掲げず、成り行きを見守りながら徐々に手を加えていくような、ゆったりとした経営が吉と出ることもある。
小間仕切りのショーケースをテナントに賃貸するボックスショップ「はこの和」(相模原市南区東林間5の18の10)は、後者の好例。代表の鈴木理子さんは、母・河野三千代さんとの二人三脚で、スローライフに通じる、ゆったりとフレキシブルな経営を展開している。
鈴木代表は大学卒業後、人材派遣の大手パソナで人材コーディネーター、研修インストラクターとして10年勤務。退職し結婚、出産を経ながら派遣等で就業する中で、空き店舗を活用し若い母親らを集めての1デイショップ構想を思いついた。
周囲の勧めで2011年、内閣府の地域社会雇用創造事業の一環として開かれたiSB公共未来塾を受講。ここでもこのビジネスプランが好評で、起業支援対象事業に選定された。
ただ、実際の起業にあたっては、自身には店舗経営や不動産のキャリアもブレーンもないため、1デイショップの複数店舗展開ではなく、単一店舗でのボックスショップに変更。「若い世代とシニア世代、障害者が交流できる場に」という三千代さんの思いを取り入れてのことでもある。
オープンは12年2月。店舗はたまたま通りかかり気に入った物件だが、内装にはこだわった。
「薄汚れた床、安っぽいショーケースなど、陳列品の価値を下げてしまうような同業店も少なくないので、そこは配慮した」と鈴木代表。
フローリングの床に天然木を組んだショーケース、明色の調度品、観葉植物…。健康的で温かみがあり、適度な質感を備えた居心地の良い空間だ。
メインはアクセサリーやバッグ、手芸、陶芸、絵画等、各テナントオリジナルの商品が陳列される約70のボックスショップだが、各種クラフトからヨガまで毎日のように開催される多彩な店内講座、出店者を募っての出張イベント(1デイショップ等)も見逃せない。
基本的には、プロ、アマ問わず、様々な形で利用者にビジネスの場を提供することを主眼としながらも、結果としてテナント、購買客、講師、受講者など、店に足を運ぶ人々すべてが気軽に交流できる“ふれあいの場”を提供することに、このビジネスの本質がある。
ボックスにはまだ3割の空きがあり、収益面では発展途上にあるものの、利用者同士の交流が引き起こすケミストリーにより、自らの造語「コミュニティギャラリー」を店名に冠する鈴木代表の心の満足度は高そうだ。
コンペで得た返済義務のない起業支援金50万円は既に返納。外部の制約を受けず、独自性を維持しながらフレキシブルな経営を目指す。(矢吹 彰/2014年7月10日号掲載)