東日本大震災では津波による被害が甚大だったが、さしあたり大多数の人々にとって最も恐ろしいのは建物の倒壊だ。
自宅が耐震・免震構造だからといっても、在宅時に地震が発生するとは限らない。だから、行く先々の建物の安全性がちょっと気になる。
「率直なところ、全国各地、公共施設を含めて危険な建物は数多い」
地震時の建物の揺れを吸収するエキスパンションジョイント(以下EXジョイント)の開発・販売・施工を手掛けるアサヒサンコー(相模原市緑区二本松1の37の11)の潟山健一郎社長はこう明言する。
建築資材を扱うアスク(現エーアンドエーマテリアル)をスピンアウトする形で潟山社長が同社を設立したのは1984年。基幹事業は、階段やベランダ、浴室・トイレの手すり、窓枠等、主にステンレスやアルミ製の建築用金物の設計・施工・販売だ。
EXジョイントに関しては87年、アスク製品の指定工事店として取付け工事を始めたのがきっかけ。92年には、この分野から手を引いたアスクから設計・製作を引き継ぎ、以後、自社ブランド事業として地道に育ててきた。
売上比率においては、他の建築用金物にまだ一歩も二歩も及ばないが、社会的使命も含めた潟山社長の経営理念、将来的な成長戦略の中では、既に十分基幹事業の位置づけがなされている。
このところ、同社長が「危険な建物」と判断を下す理由として真っ先にあげるのが、天井落下の危険性だ。
東日本大震災の際も、建物そのものは倒壊していないのに、天井材が落下する事故が全国で2000件以上発生。とりわけ本来避難所として使われるはずの公共施設や体育館等で多発したことで、大問題となった。
天井落下の問題がやっかいなのは、EXジョイントが施工されている建物でも起こりうることだ。
「問題がEXジョイントの構造にある場合も、施工にある場合もある。いずれにしても、耐震や免震と銘打っている建物でこんな事故に遭遇したら、運が悪かったではすまされない。間違いなく人災」と潟山社長の口調も少々強くなる。
同社では5年ほど前から、天井落下に力点を置いたEXジョイントの開発を開始。大震災の8か月後に開催された先端材料技術展で、それまでの研究成果を画期的な製品として発表した。
さらに本年初頭、相模原市内の権田金属工業と共同開発した軽量不燃のマグネシウム合金板を素材に、従来製品の弱点を改良したつり天井用EXジョイントを発表。来春以降の販売に向けて準備を進めている。
潟山社長は、「基本的に取引先の建設会社、工務店等を通じての事業であり、危険な建物にターゲットを絞れるわけではない」としながらも、「製品を通じて、業者、一般市民を問わず、建物の安全性に対する意識を高めていきたい」と、決意を新たにしている。(矢吹 彰/2014年8月10日号掲載)