企業にとって最悪の事態は仕事がないことだが、仕事があってもそれをこなせる態勢が整っていないというのも辛いものだ。
「今、一番の問題は人手不足。仕事の話はあるが、受け皿の大きさを考えると、積極的に受注しにくい」
工場生産設備の組み立てを基幹事業とする有井工業(相模原市緑区下九沢1644?3)の有井俊明社長は、歯がゆい胸の内を明かす。
同社は1981年、有井社長の父・勝氏が東京・小平市で創業。
製版用自動現像機の組み立てを起点に、プリント基板や液晶・プラズマディスプレイの製造に使われる露光光源組み立て等の分野に事業を拡大。その発展と呼応するように、89年に八王子、95年に相模原市宮下、2000年に同清新と事業所を移し、07年からは現在地に落ち着いている。
これら生産設備関連の事業は同社売上の8割を占めており、そのほとんどはテクノポスト(横浜市都筑区)からの受注。
80年代から続く両社の蜜月関係に関し、有井社長に不満はない。ただ、露光光源等の最終的な納入先が中国、韓国、台湾の工場であることから、一昨年は、尖閣諸島をめぐる両国の対立の煽りをもろに受けた。
このため同社長は、00年頃から始めた、半導体製造や製薬会社等での洗浄・製造工程で使われる純水供給装置をはじめとする制御盤製作の事業を積極的に拡大することで、一社依存のリスクを抑えようと考えている。
「結局は日本製の品質の高さが見直され、受注状況はかなり回復してきたが、韓国との間にも軋轢があるなど、このところ事業が国際情勢に振り回されて、先の見通しが立たない」と同社長。
制御盤の事業は、組み立てだけでなく回路やPLCソフトの設計等も含む上に取引先も設置場所も国内なので、利益、安定両面においてもう一本の柱として育てるのにふさわしい。
ところが、ここで大きく立ちはだかる問題が人手不足なのである。
現在、従業員は9人。積極的に新規の仕事を増やしながら、最終的には若手主体に20人ほどの陣容にしたいというのが有井社長の考えだが、状況は厳しい。
「先日ハローワークを通じて募集したが、問い合わせがあったのぱ全て60歳以上。より待遇のいい大手に流れているのも事実だが、今の若い世代には、手が油で汚れるようなものづくりへの関心が薄いのではないか」と有井社長も少々諦め顔だ。
とはいえ、国際情勢の不安定さはこの先何年続くか分からない。少子高齢化と大企業優遇の国策にも大きな変化は望めない。このまま手をこまねいていては、将来の見通しは立たないままだ。
「足元は悪くない。ホームページへの反響もあるし、積極的な営業をすれば受注を増やせる自信はある。事業拡張に合わせた第二工場の構想はあるのだが」
人材確保に思案を巡らすのが、当面、社長の重要な仕事となる。(矢吹 彰/2014年9月20日号掲載)