珈琲新鮮館、経験から学び事業多角化/ありがとうの連鎖を


珈琲新鮮館(相模原市南区上鶴間)

珈琲新鮮館(相模原市南区上鶴間)


 コメダ珈琲店、星乃珈琲店、スターバックスコーヒーなど―。相模原市内の国道16号沿線は、実は「大型カフェ店の激戦区」だ。そんな中、大手チェーンではなく大型のカフェ店を運営するのが、小田急江ノ島線・東林間駅近くにある「珈琲新鮮館」(同市南区上鶴間)だ。社長の沼田慎一郎さん(44)は、「カフェは大きい〝箱〟の方がいい」と話す。沼田さんが自身の経験から学んだ「カフェ経営」について迫った。(編集部/2014年11月20日号掲載)

■今年で20周年

 沼田さんは1970年、横浜市鶴見区で生まれた。父の転勤で小学校は3回転校。高校は兵庫県の神戸高専に進んだ。

 高専在学中の19歳で始めたバーのアルバイトで、オーナーに見初められ、4店舗のうち1店舗を任せられるまでになった。「飲食店の仕事の面白さを学んだ」と話す。

 卒業後は、神戸市内のゼネコンに就職。建築図面の仕事などに従事した。しかし、「いつか自分で飲食店をやりたい」という思いがあった。

 そんな折、94年に大手ガラスメーカーに勤める父が早期退職。脱サラして相模原市の東林間に喫茶店を開業した。店は約20坪、20席の小さな「まちの珈琲屋さん」だった。

 「いつか自分の店を持ちたい」と思っていた沼田さんは勤めていたゼネコンを退職し、97年に父の喫茶店を手伝うことになった。

■珈琲豆の卸売

 「売り上げを伸ばすには、待っていてもしょうがない―」。沼田さんは、自家焙煎の珈琲豆の宅配サービスを開始する。「チラシを3万枚つくって1カ月で撒ききった。1日1千枚は配布した。とにかく当時は、がむしゃらだった」と振り返る。

 また、業務用の卸販売も開始した。町田市、相模原市、大和市などのレストランや喫茶店、スナックなどに、珈琲豆のサンプルを持って手当たり次第に飛び込んだ。

 「営業先のあてなどなかった。しかし珈琲豆には自信があった。知って貰えれば、きっと良さは分かってもらえるはずと思い、電話帳に載っているお店は、ほとんど訪問した」と振り返る。

 珈琲新鮮館の豆は、社名の通り「新鮮」にこだわっている。「珈琲豆は焙煎してから、2~3日が最も美味しいピーク。大手メーカーの豆は、工場で焙煎してから、実際に提供されるまで1カ月はかかってしまう。自家焙煎した豆を、新鮮な状態で提供できるのが、こだわり」と話す。

 こうした営業の甲斐あって、業務用の卸販売が伸び、03年には「中央林間店」を出店。焙煎工房の機能をもたせ、卸売事業を軌道にのせた。

■お店は箱が命

 12年には「東林間本店」を現在の南区上鶴間に移転した。店内78席、駐車場25台の大型店だ。

 沼田さんは、「小さい喫茶店は、多くのお客は入らない業態。喫茶店は大きい〝箱〟の方がいい」と持論を展開する。

 本店のオープン日には、午前7時の営業開始から予想以上の来客があり、午後2時には厨房をしめるほどだった。「こんなに来店するとは思わなかった」と振り返る。

 「自分の経験から言えば、小さい喫茶店だったから、お客さんが入らなかった。小さい店だと、店員の視線がプレッシャーに感じてしまう。一方で、酒場は小さい店が好きな人も多い。店員が見てくれていることが安心感に繋がる」と話す。

 沼田さんは昨年、この持論を証明している。横浜のみなとみらいで、知人が経営する小さなカフェが経営に行き詰り、沼田さんに相談があった。

 沼田さんはカフェを引き取り、3カ月間は同じ業態で営業したが、やはり赤字が続いた。そこで、肉料理とワインを提供する業態に変更。すると、同じ立地・同じ店舗で、売上は6カ月で3倍になったという。

 「カフェは大きい箱がいい。酒場は小さくても大丈夫。客層が違う」。まさに沼田さんが経験から学んだ経営論だ。

■店舗の多角化

 20年前に、「まちの珈琲屋さん」として創業した同社だが、現在では東京の新宿や埼玉の入間市などに、もつ煮込み・もつやき居酒屋、肉をメインとした定食屋などを出店し、事業を広げている。

 沼田さんは、飲食店ではおいしいより、「楽しい」が大切と話す。

 「おいしいは当たり前で、さらにもう1つ付加価値をつけなければならない。例えば、お客様より先に気づき、先回りのサービスができるように心掛けている。このためには、従業員の〝人間力〟が必要」と話す。

 沼田さんは「ありがとうの連鎖」を企業理念に掲げる。「サービスに携わる者として、お客様からの『ありがとう』は大切。しかし、もっと大事なのは働く仲間からの『ありがとう』。身内から感謝があふれる企業になって初めて、お客様からも『ありがとう』をいただくことができる」と話す。

 将来は、グループから10人の社長を輩出することが目標という沼田さん。挑戦はまだまだ続く。

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