帝国データバンクの調査(2014年)によれば、国内全社長の7・4%、13・5社に1社が女性社長だそうである。数字上の割合は高いとはいえないが、もはや珍しがられる存在ではない。
とはいえ、業種によっては、やはり色眼鏡は根強く残る。
「訪問先で名刺を差し出した後、受付の方が目を白黒させるのを見たのは1度や2度ではない」
精密板金加工を手掛けるユウキ工業(相模原市中央区下九沢1093の1)を率いて11年目を迎える北澤芳恵社長は、ごく日常のことのように話す。
同社は、北澤社長の実父で現会長の結城昌臣氏が1986年に創業。
それまで同氏は、長らく相模原市内の板金加工会社で現場と営業を取り仕切っていたが倒産。その際、得意先から引き続き管理業務の要請を受けたことが創業のきっかけだ。
当初はメーカーと協力工場との仲介役に徹していたが、3年目に各種加工機を導入し、再び自ら板金加工を手掛けるようになった。
積極的な設備投資を通して生産管理に注力し、顧客からの信頼を勝ち得て着実に成長。都内の企業に勤めていた北澤社長に家業をサポートするよう声が掛かったのは93年のことだ。
父との間に軋轢はなかったが、家業と自らの人生との間には一線を引いていた。入社には抵抗があり、とりあえずOL生活を続けながら経理のみのサポートを引き受けた。
しかし2年後、「片手間では不具合も生じるし、コンピュータによる生産管理システムも新たに導入したい」と、改めて強い入社要請があった。
北澤社長は学生時代、情報処理を専攻。そのノウハウが家業の改革に有益なことは十分理解していた。
入社の流れは止められないと判断した同社長は、承諾するにあたり「現場仕事には入らない」「プライベートに口出ししない」など、いくつかの条件を父に了解させた。
入社早々、生産管理システムの導入に一役買ったことで、異質と思われた組織にもスムーズに溶け込めた。また、繁忙期にやむを得ず手伝わざるを得なかった現場作業に、意外な面白さを感じるようにもなった。
04年、昌臣氏の還暦に伴い、入社時点でうすうす予感していた社長就任が現実のものとなった。
好況とはいえぬ時期の承継であったが、財務は無借金。前社長は関係者を招いて盛大な披露宴を開き、新社長の前途に確かな道筋をつけてくれた。
現在同社の基幹事業となっているのは、通信機器、半導体関連の精密板金加工だが、受注当日納品も日常茶飯事という超短納期・高品質の小ロットものが大きなセールスポイント。これにより、無益な価格競争にも巻き込まれずに済む。
「そのために午前、午後にミーティングを行うなど、生産管理の徹底を図っている」と北澤社長。
分刻みの仕事に追われれば、現場に張りつめた空気が漂うのは必然。しなやかでおっとりした北澤社長の存在とモダンで寛ぎ感あふれる社屋は、その緩和に大いに役立っているのではないか。(矢吹 彰/2014年11月20日号掲載)