ギャラリー誠文堂、現代美術の魅力を発信/画廊をリニューアルオープン


ギャラリー誠文堂の中澤さん夫妻

ギャラリー誠文堂の中澤さん夫妻

  相模原市役所近くのギャラリー誠文堂(中央区中央3―7―1)が3月30日、全面改築オープンする。3階建てビルの1階に開業したもので、広さは約30平方メートル。主宰する中澤洋、知津子夫妻が40年あまりにわたって収集した現代美術作品を常設展示するとともに、独自の企画展を開催して多くの人たちに親しんでもらおうという私設画廊だ。こけら落としとして、竣工記念第一弾展示会と銘打った多彩なジャンルの作品展を10月まで連続開催する。(編集委員・戸塚忠良/2015年3月20日号掲載)

■抽象画に興味

 ギャラリー誠文堂の前身は、31年前に開業した本と文具の店、誠文堂。9年前にギャラリーを併設し、20平方メートルほどのスペースで絵画、陶芸、版画、彫刻、写真などの展示会を重ねてきた。それとともに、主に中澤洋さん(70)が収集した抽象絵画を常設展示してその魅力を伝えることにも努めてきた。

 中澤さんは大学卒業後、八千代信用金庫(現・八千代銀行)に就職。各地の支店で勤務し、延べ16年間にわたり年金相談業務に携わるなどして定年まで勤め上げた。その傍ら社会保険労務士の資格を取得した勤勉家でもある。相模台支店に勤務していた若い日に、女性で初めて画家の登竜門である安井賞を受賞した市内在住の作家、上條陽子氏の家を集金の仕事で訪れたというエピソードもある。

 そんな中澤さんが美術に関心を持つようになったのは就職後のこと。休みの日に画廊をのぞくようになったが、当初は具象画のファンだった。しかしある日、ふと立ち寄った銀座の画廊で菅井汲(くみ)の水墨画の味わいを持つ抽象画に出会って感動。それ以来、現代美術への関心を深め、給料をはたいて抽象画などを買い求めるようになった。

 「絵画や版画は自分の感情を色と形と線の組み合わせで表現する芸術。そこにはおのずから作家の個性が表れています。私にとって心地よく流れている線や、豊かなイメージを呼び起こしてくれる形と出会うたびに、自分の心が動くのを感じます」と中澤さん。

■画廊開設

 その後も菅井の作品を始め、草間彌生の絵画、ジョアンミロの版画のほか相模原にゆかりの深い上條陽子、秋竜山、市村章、戸田みどりらの作品も収集し、「正確に数えたことはない」というまでに収蔵数が膨れ上がった。ほぼすべてが現代作家の作品で、抽象画と版画が主体だ。

 そのため、コレクションを公開して現代美術の魅力を発信しようという気持ちが高まり、妻の知津子さんが経営する旧店舗でこれらの収集作品のいくつか展示したほか、地元のプロ作家の個展を中心にした特別展を開催。出品作家との交流を深めた。

 昨年、旧店舗を耐震構造にする必要もあって改築に踏み切り、一階を従来の1・5倍の広さを持つギャラリーとして整備した。

 新たなギャラリーの基本的なコンセプトについて中澤さんは「私たちの個人コレクションを通じて現代美術の素晴らしさを多くの人に知ってほしい」と説明する。多くの人と感動を共有したという、長く持ち続けている願いをこめた言葉だ。

■地域との絆

 中澤さん夫妻がもう一つ大切にしているのは、地域、そして地元作家との絆。「相模原・町田在住作家に発表の場を提供したい。画家を目指す人たちの発表の場にもなれば」と話す。さらに、「相模原市と周辺地域には女子美術大学、多摩美術大学、東京造形大学などの美術系大学が多い。これらの大学の教員や学生などの美術発信の場としても利用してもらえれば」と加える。

 改築オープンにより地域とつながりを一層強めたいという思いは、ギャラリーを版画、油絵、水彩画、陶芸、手芸などの作品発表や個人コレクションの披露の場として多くの市民にも活用してもらい、美術を通じて地域の活性化に寄与したいという願いと通底する。夫妻が「画廊は地域の草の根活動。お金もうけと考えたことは一度もありません」と口をそろえて語るゆえんだ。

■記念展開催

 記念すべき新築第一弾特別展は、相模原を代表する5人の作家の作品展。相模原芸術家協会会長も務める上條陽子氏、シェル美術賞受賞の小原義也氏、日本版画学院展天雲賞受賞の日下賢二氏、女子美大大学院教授の馬場章氏、日本版画協会展山本鼎賞受賞の松本旻氏という、錚々(そうそう)たる名が並んでいる。会期は3月30日から4月4日まで。

 記念展はこれ以後も絵画、版画、彫刻、陶芸などのジャンルごとに4人~6人のグループ展として連続開催し、その間に草間彌生、菅井汲、秋竜山、写真家天野暁子の個展も織り込む予定だ。

 収益の一部は市社会福祉協議会に寄付することにしている30日のオープニングパーティーのプログラムには、夫妻の娘でプロダンサーの中沢菜穂さんによるベリーダンスも盛り込まれている。4月27日からは手作り作品のレンタルボックスも始める。

 中澤さんは「新築オープンを機にホームページやフェイスブックでも積極的に情報発信し、近隣の人や市役所などに勤める人にも気軽に立ち寄ってもらえる画廊にしたい」と熱を込めて話す。

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