何でもつくります―
1年ほど前まで、大沢工業(相模原市中央区上溝1923の1、大沢孝史社長)のホームページにアクセスすると、こんなキャッチコピーがインパクトある演出でトップページを飾っていた。
しかし、現行のホームページのどこにも、それは見当たらない。
「何でもつくれるというのは長所のようだが、見方によっては、得意分野、他より秀でた分野がないとも捉えられる。発注する側に立てば、器用なだけで技術はさほど高くないと思われかねない」
かつて自慢であったはずの看板をおろした理由を、大沢社長はこう話す。
同社は1967年、大沢社長の父で現会長の洋成氏が創業。当初からしばらくは主として溶接による修理業を営んでいたが、80年代半ばに大沢社長が入社するや、機械・機器の設計分野に力を入れ始める。
こうした中、設備機器の修理で頻繁に出入りしていた大手企業の工場でその技術を見込まれ、そこで新規導入される様々な設備機器の設計・製作を受注するチャンスに恵まれた。
検査装置、箱詰め装置、自動梱包ライン、搬送装置、口栓組み立て装置など、手掛けたのはいずれも工場業務の自動化、効率化に有益となる多種多様な機械・機器。工夫を凝らし、持てる技術を余すことなく注ぎ込んで、何でもつくってきた。
そう、〝何でもつくります〟の自信はこうして培われたのだ。
ただ実のところ、その背後には常に、同社長の大きな葛藤が潜んでいた。
「毎回、高いレベルで一品ものを作り上げるわけだから、技術は自ずと磨かれる。ただ、主要顧客はほぼ一社で価格の主導権は先方にある。量産に伴う利益面のメリットもないし、製品を顧客拡大に結びつけられないジレンマを背負ってきた」
もちろん、長らく密な関係を築いてきた得意先との縁を断ち切るつもりはない。とはいえ、このままでは腕は上がっても、それに比して事業を拡大、発展させられない。新たな顧客を確保し、技術、仕事量に見合った利益をあげていくには、〝何でもつくれる〟自信は一旦胸にしまい、独自の〝得意分野〟を前面に出して広く売り込んでいく必要がある。
そこで同社がこのほど開発したのが、食品製造における充填や箱入れ過程でのマテハン機器に組み込むことにより、従来のロット単位ではなく、個別単位で安全性を確認できる「製造過程印字識別管理システム」。まさに、これまで同社が手掛けた一品ものの技術を集約させたオリジナルといえるもので、ラインを新規に設計・製作することも既存ラインを改造して組み込むことも可能だ。
「当社の強みを最も生かせる領域がマテハン。とりわけ食の分野は、今後も市場が縮小、消失するようなことがなく、安全性はますます問われるので有望」と大沢社長。
進路が定まれば、人も組織も強くなる。
(編集委員・矢吹彰/2015年3月20日号掲載)