病院やクリニックの開業支援とリフォーム、クリーンルームの設計施工、医療機器販売など、医療の分野で幅広い業務を展開している、クローバーエイト(緑区西橋本)。社屋に隣接する居宅介護指定事業所ワンズタイムも運営しており、地域の高齢者福祉にも貢献している。代表取締役の田頭敬子さんは福祉住環境コーディネーター2級、福祉用具相談員の資格を持ち、医療と福祉をトータルに支援する企業経営者として日々奮闘している。(編集委員・戸塚忠良/2015年5月1日号掲載)
■病院の清掃
田頭さんは広島県尾道市の出身。東京の大学で学び、結婚後はごく普通の専業主婦としての生活を送っていた。
だが、27年前、無菌治療室や無菌病棟の設計施工に取り組んでいる夫・弘道氏から「国立がんセンターの治療室を清掃する仕事をしてみないか」と声をかけられたときから生活は大きく変わった。
医療機関が病室や医療機器を清掃消毒し清浄な状態に保つことは、MRSA(院内感染)を防止するために必須の要件。その当時、敬子さんには院内清掃の仕事の経験はなかったが、「消毒液で洗い、清掃用の機械を動かすくらいなら」と考え、小児用ガン治療室の清掃、ベッドとマットレスの消毒などに挑戦することにした。
そして田頭さんをはじめとする8人のチームは誠実に業務に取組み、丁寧な仕事ぶりが高い評価を受けた。この結果、思いがけなくも、国立仙台病院の院内清掃の仕事も任されることになった。
このとき一緒に作業した8人のパート仲間との思い出は強く心に刻まれ、1989年9月に創業したクローバーエイトという事業所名のもとになっている。
「高い志を持って創業したわけではありません。むしろ、偶然始めた仕事です。縁があったとしか言いようがありません」と謙虚に話す田頭さんだが、「自分たちの仕事が人に認められ、評価されるのは何よりうれしいことでした。また、医師や看護師の方々の献身的な努力、がん患者様の厳しい闘病生活を知るたびに、命を守る仕事の大切さを感じさせられ、医療関係の仕事を続けたいと思うようになりました」と回想する。
創業後は清掃や消毒だけでなく医療関連のいろいろな業務に手を広げるようになり、それとともにハード、ソフトの両面で多くのノウハウを蓄積していった。
■多数の実績
2000年5月、クローバーエイトを設立。手術室・クリーンルームの設計施工、クリニックの開業支援を柱にした事業の中で相模原市内と周辺都市の病院やクリニックの新装・補修、X線遮蔽工事、クリーンルーム新設、病棟塗装、診察室の増設、MRI改修などを施工してきた。現在までに日本各地で合計173件に上る施工実績を積み重ねている。
市内では社会保険相模野病院の手術室および無菌室、医療法人光生会さがみ循環器クリニック、JA相模原協同病院、総合相模更生病院、伊藤病院などで手術室を施工した実績がある。
また、手術室およびクリーンルーム用「カラレックス」を販売しているフォルボ社と専属契約を結び、日本赤十字医療センター、社会保険相模野病院など延べ30施設の医療機関で床工事を担当してきた。
業務の柱の一つであるクリニック開業支援では、開業地のエリアの診療圏調査、資金計画のプラン作成などを踏まえて設計施工計画を立て、導入する医療機器の紹介、公官庁への届け出、開業に伴う広告・宣伝など、一切の準備作業を担う。
設計事には開業する医師の希望にしっかりと耳を傾け、後々治まで安定的にまた快適に診療にあたれるよう限られた資金を十二分に活用できる計画を作成している。「お医者様との信頼関係を大切にしています」と田頭さんは力を込める。
■介護に進出
社会の高齢化が進むにつれて、医療とともに需要が高まっているのは高齢者の居宅介護。マーケットとしても広がる将来的な流れを見すえて田頭さんは12年、居宅介護支援事業所「ワンズタイム」を新設した。
利用者に家族と一緒に快適な毎日を送ってもらうためのケアプランの作成、必要な福祉用具の選定、健康維持・増進のための炭酸泉浴の提供を業務の柱にしている。
炭酸泉は田頭さん一押しの温浴。血液の循環をよくして筋肉疲労や関節痛、神経痛などの症状を改善するのに役立つと言われている。ワンズタイムでは事業所の中に人工炭酸泉装置を置き、手足浴を楽しんでもらっている。
■地域との絆
クローバーエイトは弘道氏が会長、敬子さんと子息の俊宏さんが代表取締役を務める。取引の相手は全国に及ぶが、創業以来四半世紀あまり市内に拠点を構えて来た企業として地域とのつながりは深い。敬子さんは「地域密着の家族経営です」と笑う。
それだけに、医療と介護の分野での事業を地域貢献につなげたいという思いも強い。「いつでもいい人に恵まれてきました。これからも人と人のつながりを大切にしながら、小さくても実のある会社でありたい」と企業観を語る田頭さんは、「自分のいる所で何かに貢献できる会社でありたいと思います」と、60代後半とはいえ少しも衰えない元気あふれる声に熱を込める。