NPO法人緑のダム北相模は、前身を含め1998年から相模湖を望む嵐山の森(相模原市緑区)を整備する活動に取り組んでいる。毎月1回、ボランティアが間伐、下刈り、枝打ち、植樹などの地道な作業を続けており、現在は甲州街道沿いの小原の森にも活動の場を広げている。「森林破壊という負の遺産を子孫に残してはならない」というメッセージを相模原から世界に向けて発信する試みだ。代表理事の石村黄仁(こうじ)さんに話を聞いた。(編集委員・戸塚忠良/2015年6月10日号掲載)
■森の荒廃を実感
嵐山の森の再生に向けたボランティア活動が始まったのは、長い間空気清浄装置・機器の開発に従事し、環境問題に関心が深い石村さんの山歩きがきっかけだった。
98年の春、陣馬山に登った石村さんは相模湖へ下りる道で違和感をおぼえた。「森があまりにも静かすぎる」。渓流には水が無く、小鳥のさえずりも聞こえない。森のあちらこちらで倒木が道をふさぎ、根がむき出しになっている…。石村さんは森の荒廃を肌で感じ取った。
「ここだけではなく、多くの森が荒れているのではないか」と考えた石村さんは、国内外の森林資源の現状について情報収集し、森の荒廃と森林破壊が急速に進んでいることを改めて知った。
「このままでは森が滅びる。今すぐ森の保全と再生に取り組ないと人間の未来も無い。自分たちにできる活動をしよう」と意欲を燃やした石村さんは、数人の仲間とともに森づくりのボランティア活動に一歩を踏み出した。
■「緑のダム」設立
とはいえ、全くの素人集団。最初はNPO森づくりフォーラムに山仕事の手ほどきを受けながら毎月1回の定例活動を重ねた。
当初からの合言葉は、「休まず、急がず、楽しく、無理せずに、ボチボチと」。雨が降っても風が吹いても、この文言通りのグループ活動を続けた。
活動理念に共鳴する人たちの参加も増え02年、NPO法人緑のダム北相模として法人化を果たした。同時に、相模湖を望む広さ約41ヘクタールの嵐山の整備に着手し、定例活動の実践の場とすることになった。
「地主の鈴木重彦さんの理解と協力があったからこそできる活動。NPOの初代代表理事も務めていただいた」と石村さんは感謝の言葉を口にする。
活動開始時からずっと地元の人たちとの交流を大切にしてきたが、NPO化後も町の行事に積極的に参加するなどして地域との融和に努め、以前はよそ者扱いしていた町の人たちの理解も深まっていった。
NPOとしての活動方針に「森をつくる」「森をいかす」「森をつなぐ」の三項目を掲げ、枝打ちと間伐をはじめとする森林整備事業とならんで、間伐材を活用したベンチや積木づくり、県や市との協働事業、子どもや初心者を対象にした体験教室、水源涵養に向けた相模川の上・中・下流域住民の連携事業といった幅広い活動を展開するようになり、現在に至っている。
■国際認証取得
05年には森林整備の国際認証機関FSC(本部・ドイツ)の認証を取得した。ヨーロッパでは公有林や大規模森林が取得しており、日本でボランティア団体が取得するのは初めてだった。認証された森林から伐り出された木材は高品質の折り紙付きとなる。
認証取得を機に、2つ目の活動フィールドとして同じ相模湖町の小原の森の整備にも着手した。
その後は木を素材にしたモノづくりコンテスト、間伐材を使った建物づくりといった主催事業のほか市などとの協働事業を積み重ねている。企業や各種財団からの助成金も確保し、国土緑化推進機構会長賞、国際ソロプチミスト協会感謝状、かながわ大賞特別賞などを受賞。
公的機関、大学との協力関係も深めており、2014年には麻布大学と連携に関する包括協定を結んだ。緑のダム北相模の認知度の高まりと活動の意義に対する理解が深まっていることがうかがえる。
現在の会員は107人。定例活動の参加者は毎月2会場合わせて約100人。近く、3番目のフィールドでの活動も始める予定だ。
今年5月の嵐山での活動には大学生、高校生のほか、緑のダムの青年メンバーに率いられた中学生10数人が参加した。石村さんは「若者の森づくりが始まったという印象ですね」と目を細める。この日はNPOに関心を持つフランス人が視察に訪れたという。活動の内容はホームページで詳しく紹介している。
■グリーンハブ都市
石村さんは「森の再生には長期のビジョンと哲学に基づく林業政策が必要。今の国の政策ではダメです」と語気を強める一方、相模原の将来に大きな期待を寄せる。
「相模原は森林資源地域に立地しており、市の58%は森林です。将来的に木質液体燃料が石油に代わるエネルギー源になり得ることを見込むと、森林資源を活用することで新たな林業を創出する可能性を持っているのではないでしょうか。相模原が環境と経済のバランスがとれたグリーンハブシティとして発展する可能性は十分にあると思います」
緑のダム北相模の活動は、相模原から森林蘇生のメッセージを発信すると同時に、環境と経済を両立させた林業を復活させる取り組みでもある。