有限会社デザインアップル(相模原市中央区千代田)を経営する駒場正太郎さんは、35年以上にわたり新聞や地域のコミュニティ紙などに掲載する広告制作の仕事に携わっている。サラリーマンから転身して個人として開業し、実績を重ねて会社を興した。今はアートディレクターとして、制作プロセスのスケジュール管理や作品の最終的な構成などを行っている。最近はホームページやゲームソフトにオリジナル音楽を入れるサービスも始めた。創意尽きない商業デザイナーに広告制作への思いを語ってもらった。
(編集委員・戸塚忠良/2015年10月1日号掲載)
■「プロ」への一歩
サラリーマンをしていた20代半ば、駒場さんは何かの「プロ」になりたいという強い意欲を燃やしていた。ちょうど世間でスペシャリストとか差別化などといった、強い個性や特長がもてはやされるようになった頃である。
自分の特技を身につけたいと模索するうち、新聞広告で知った商業デザインの通信教育を受けることに決め、一心不乱に勉強に励んだ。
習得すべきことは多く、なかでもAIDMAと略称される、広告を作る上での大原則を徹底的に教え込まれた。Attention(注意)、Interest(関心)、Disire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)の5つだ。この時期に蓄積した知識と技術は後の実務に生きる。
開業したのは、バブル経済が崩壊した時期。広告は商品イメージより情報を重視する傾向が強まっていた。「駆け出しのころは与えられたものを形にしていくだけでよかったが、それだけでは満足できなかった。自分のイメージを生かし、お客さんにも納得してもらえるものを作りたいと思った」と回想する。
■ディレクター
実際に広告を作るには、発注先の希望をもとにして資料を調べ、取材、イラスト、写真、コピーライティングなどさまざまな要素を一つの作品にまとめる人が不可欠となる。
その役割を担うのが、アートディレクター。駒場さんもその一人だ。発注元との打ち合わせから見積もり、スタッフの確保、スケジュール管理などの下準備を行った上で、作品の最終構成とクライアントへの提出と調整を分担する。
ディレクターが自分のイメージ通りの作品を仕上げるには各分野のスタッフとの意思疎通が重要な要件になるが、駒場さんはいくつもの仕事をこなしながらスタッフとの協力関係を強めてきた。「今一緒に仕事をしている仲間は気心の知れた、本当のプロと呼べる人ばかり」と胸を張る。
スケジュール管理などについては早くからパソコン化を進め、取引企業の担当者が見学に来たこともある。「パソコン活用のノウハウを教えることを通じて信頼関係を深める効果もあった」という。
■制作への思い
駒場さんが業務の中で何より重視しているのは、見てくれる人の視線と効果だ。「新聞広告の効果を考える場合、見る人の目がどこに向き、どんな情報を得て何を感じるかがポイントになる。そういう点に配慮しながら制作している。最終的には見る人に行動を起こしてもらえれば完璧な広告」と語る。だから、「いちばんうれしいのは、効果が見えたとき」という言葉に力がこもる。
時には、自分のイメージに基づく作品と、発注元の要求を強く押し出す2つのタイプの作品を用意して提示することもある。
「押しつけがましい内容を求められるとやりにくいが、それでも仕事に入ると夢中になってしまう」と苦笑交じりに明かす反面、「クライアントの要求を充たすだけに終わらず、それを超えるものをつくりだすのがアートディレクターの使命だと思う」と矜持(きょうじ)をのぞかせる。
広告制作業が置かれている状況については、「パソコンで広告を作れる時代。地域のコミュニティ紙などかつての得意先からの注文が減り、厳しい業務環境であることは間違いない」と表情を引き締める。
その一方、「今後、電力事業やガス事業が自由化すれば、どんな新しい広告需要が出てくるか、私たちがそれにどう応えていくか…、面白い展開になるはず」と展望し。「若い人たちにもしっかり勉強し、いろいろなものに挑戦してほしい」と期待を寄せる。
■新たな試み
最近、新しい自社事業に着手した。ホームページやゲームソフトに自社制作のオリジナル楽曲を付けるサービスだ。業務用だけでなく、個人の需要にも応じている。キャッチフレーズは『花束に添えて音楽を』。
知り合いの人から「ホームページにディスクジョッキーを入れたいのだが」と相談されたのがきっかけ。ホームページでデモンストレーションの曲を紹介したところ多くのアクセスがあった。
「プレゼントとしても使ってもらえる。音楽業界と広告業界は共通する点が多い。効果を出すという面でも共通性がある。まだ始めたばかりだが、会社の業務の幅が広がったというメリットはある」と笑う。
「だれかのまねではなく、オリジナリティーのあるものを作り出していきたい」と語る駒場さん。新しいものに挑戦する旅は続く。