定期交換を要する消耗部品ではないものの、距離、年数とともに確実に劣化し、点検を怠ると、極めて大きな代償を支払うことになる。そんな自動車部品の一つがラジエターだ。
ラジエターに問題が起きれば、修理窓口は表通りに看板を掲げるメーカーのディーラーや自動車整備業者になるが、専門性の高い分野だけに、背後にはそこに特化した業者が存在する。
相伸ラジエター工業(相模原市中央区横山台、江成賢吾社長)は、ラジエターのほか、熱交換器として同種の部品といえる過給器用インタークーラーやオイルクーラー、カーエアコンのエバポレーターやコンデンサなどの修理・販売・新規製作を手掛けている。
同社は1966年、江成社長の祖父・定氏が矢部で創業。当初は相伸工業の名で主に建機の整備を請け負っていたが、受注案件の中でラジエター修理が増えてきたため、71年に現社名に変更するとともに事業を特化した。
モータリゼーションの発展に伴い、同社も建機以外の車両のラジエター、さらにはカーエアコン関連の熱交換器も手掛けるようになるなど、事業を拡大。成長に合わせて、2代目である父・保正氏の時代には中央、そして現在の横山台へと本社工場を移した。
昨年初頭、3代目に就任した同社長は37歳。経営者としてというより、この分野の技術者として異例に若い存在といえる。
同業者が少なく競合にさらされにくいとはいえ、この分野はこれまでも、また今後もおそらくニッチでマイナーな分野であり続ける。そんな将来を背負おうとする青年は多くはない。
「家業を継ぐことに葛藤がなかったわけではないが、10年ほど前に決心した。技術は30以上も年上の従業員から学んだ。同業者の会合でも、同世代に会うことはまずない」と江成社長は打ち明ける。
メーカーや車両の大きさが異なっても、ラジエターの基本構造は大差なく、修理技術は国内外のほぼ全車両に対応できる。しかし、かつて総金属製だったものが樹脂複合のアッセンブリーになるなど、近年の純正品は修理より交換の頻度が増してきた。
ただこうした場合、純正品より割安の社外代替品の活用を提案、販売することも同社の重要な業務となっている。
また、決して多くはないが、特殊車両や既に部品製造が打ち切られた旧車両のために、ワンオフの特注品製作も請け負っている。
レシプロ車からハイブリッド車、EVの時代へと移行しても、動力源の過度な発熱を抑える一方、その熱を暖房として利用するという機能は不可欠であり、その面でラジエターより優れた部品はまだ発明されていない。
とはいえ、ラジエター関連の事業だけで、この先の成長は描き難い。公表できる段階にはないが、江成社長の頭の中では、もう一つの基幹となり得る新規事業の青写真が構築されつつあるようだ。
(編集委員・矢吹彰/2016年1月20日号掲載)