採用面接で企業を訪ねたなら、事前情報から抱いた先入観は概ね当たっているほうがいいが、このような仕事で訪ねる場合は、むしろ外れたほうが興味をそそられるし、率直な話ができる。
ホームページによれば、ブロー(相模原市中央区田名、富田涼子社長)の基幹事業はクルマのカスタマイズやカスタムパーツの開発・製造・販売である。
改造車、女性社長…。正直やや偏見めいた先入観があったのだが、まもなく吹き飛んだ。
「競艇選手になりたくて高校卒業後、何度も受験したが、20歳までに合格できなかったので起業することにした」
屈託なくこう振り返る富田社長はデニムのオーバーオールがよく似合う、アクティブな女性だ。
初期の夢を断念後、就職ではなく独立起業の道を選択したのは、宙に浮いたチャレンジ精神と情熱の新たな行き場を求めたからにほかならないだろうが、伏線となるキャリアがしっかりある。
受験を重ねる間、同社長は、将来を見越して自ら船体やエンジンの整備・修復をこなせる技術を身につけるために、当時津久井郡にあったFRP加工業者でアルバイト。結果としてこの経験が、彼女に技術だけでなく職人気質を培わせた。
1995年、「フラッパー」の屋号で、ミニバンやバイクのカスタムパーツ開発・製造・販売をスタート。98年に、アルバイト時代の同僚だった中澤慎氏(現・同社専務)の「スパイス」と合併することで、現在に至る同社の母体が築かれた。
創業から10年ほど、同社は一貫して市販車両のカスタムパーツ開発・製造を主力としたが、道交法の改正が事業にも少なからず影響を及ぼすなど、一進一退の状況が続いた。それが変化するきっかけとなったのが、カスタマイズカーを集めてのモーターショーとして開催される東京オートサロンのカスタムカーコンテスト・ミニバン部門で、同社が02年、03年と、立て続けにグランプリを受賞したことだ。
もともと、同社のFRP製カスタムパーツは高い加工精度、滑らかな表面処理技術で好評を得ていたが、この大イベントでの受賞により、大手メーカーの技術者にもその名が轟くこととなった。
以降、同社のもとには特殊車両製造会社をはじめ、ついには大手二輪・四輪メーカーや部品メーカーからカスタムパーツのマスター制作やOEM品の受注がコンスタントに舞い込むようになった。
さらに市販軽自動車をベースにオリジナルパーツでカスタマイズした自社ブランドカーは、シズル感でベース車両を遥かに上回る。しかも全モデル陸運局承認済みである。
「組織、事業とも無闇に拡大することはない。大変だが、当社のセールスポイントは何と言っても丁寧な仕事」と話す富田社長は紛れもなく同社の技術の要。
先入観とのズレは、そのまま同社の魅力、将来性につながる。
(編集委員・矢吹彰/2016年2月20日号掲載)