相模原市緑区千木良の精神障害者施設「県立津久井やまゆり園」で入居者ら45人が殺傷された事件の裁判員裁判が8日に始まったのを受け、障害者やその家族、支援者らの有志団体は11日、かながわ県民活動サポートセンター(横浜市神奈川区)でシンポジウムを開いた。
シンポジウムでは「事件が社会になにを問い掛け、何を裁くべきか」を考え、「被告個人を裁くだけでなく、私たち社会にある差別意識も裁かれる必要があるのでは」との意見があった。
登壇したのは、障害福祉が専門の浦和大特任教授の河東田博氏、元入所者の息子を持つ平野泰史氏、自身も車いすに乗るグループホーム運営者の千田好夫氏、精神科医の高岡健氏。視覚障害者で元参議院議員の堀利和氏がコーディネーターを務め、障害者差別や施設の運営体制など事件の社会的な背景について意見を交わした。
横浜地方裁判所で開かれた同園元職員の植松聖(さとし)被告(29)の初公判では、罪状認否「(間違い)ありません」と起訴内容を認め、「皆さまに深くおわびします」と発言。その直後、被告が指を口に入れようとするなど暴れ出したため、裁判は一時休廷となったという。
弁護側が、被告は大麻使用による心神喪失状態だったとして無罪などを訴えていることに対し、「(被告の主張と)弁護方針に食い違いがある」との指摘もあった。植松被告は「重度の障害者は安楽死させるべきだ」と動機で犯行に及んだ背景から、責任能力があると主張していた。
公判の主な争点が刑事責任能力の有無となっていることについて、「些末(さまつ)でマニアックな裁判になってしまう。犯行の動機や思想がどのようにして培われたか、明らかになるような裁判になってほしい」と話す参加者もいた。
施設のあり方についても議論が及び、「植松被告は施設の中の悪しき実態を訴えていたが、やまゆり園での処遇の実態が解明されていない」との意見が出された。県が設置した検証委員会で施設職員による身体拘束の疑いが報告されたことについて、河東田氏は「施設では普段の生活と程遠い生活を送っている。施設を巣立って社会で自立していくことはできない」と訴えた。
会場には、県内外から200人近くが集まった。シンポジウムの冒頭で、犯人の生い立ちから裁判までを追った映画「生きるのに理由はいるの?」(監督・澤則雄さん)のダイジェスト版も上映された。
【相模経済新聞1月20日号】